第二百七十四話
何故か皆に食事を作る流れになってしまう。
主に主犯格はヤツだ。
それを見た皆が騒いで来たので俺が作る外無くなった。
因みに、キングを含む使用人には全力で止められていたが他の人達の獣の様な目が怖くて結局今は調理場に居る訳だ。
すまない、キング達よ…。
身体を動かしたのでオーク肉でスタミナ丼を作ろうと思って仕込みを終えた。
実際あとは混ぜて焼いて米に乗せるだけなのでほぼ終わりみたいな状態ではあるが…。
「手が足りん…」
すると、いつの間にか隣に居たキングから声が掛かる。
「でしたら爺めがお手伝いを致しましょう」
キングには調理場を任せてる訳では無いけれど…何故だか絶対的な安心感があるな。
「申し訳ないけどお願い。 このタレに浸されてるお肉をフライパンで焼いておいて欲しい。 火を通し過ぎると固くなるけど生は駄目だから気を付けてね」
「お任せを」
心強い味方が居て助かった。
今回はうちの使用人にも出そうと思って相当な量を仕込んでたからキングの存在は助かる。
うちの妻達は貴族や王族、エルフ等が多い為にちゃんとした調理経験の無い者が多い。
あるのは平民出身の二人だけだろうか…?
ジュウジュウと香ばしい匂いを漂わせながら焼かれていく肉達。
「ほぅ、これは中々良いですな。 香りだけで食欲がうんと掻き立てられますぞ」
「運動して疲れてたからね。 それに使用人は普段から仕事してるからね、そういう意味でもたまにはこういうのも良いかなって」
「考えられた料理なのですな」
「そうだよ、丼物だから食べやすいのも良いと思わない?」
「洗い物も減るので助かりますな」
え? 普段キングが洗い物やってるの?
だとしたら他の使用人は?
「あぁ、爺がやっているのではないですよ? ただ、経験はあるので、その大変さが身に染みるのです」
「なるほどね」
…ヴァンパイアのキングでも皿洗いとかするんだね。
結構過酷な世界だったのかな。
いや、キングの性格的にはなんでも経験したら良い…みたいな感じだったのかもしれないけれど。
「キング、味見してみるかい?」
「この老いぼれが一番最初でよろしいので?」
「普段一番頑張っているキングだからこそ最初に食べる権利があるのさ」
「人の頑張りに優劣を付けてはなりませぬぞ? ですが、そのお気持ちはとても嬉しいものです。 では、お言葉に甘えて」
確かにキングの言う通りだな。 皆頑張っているんだから一番とか決めてはいけなかった。
「ん!!! 美味い!!! おや…進化の影響でしょうか…ニンニクが美味しく食べられますな」
「あ、しまった。 ヴァンパイアってニンニク駄目なのか」
「いえ、嫌いと言うだけで食べても死にはしなかったですが。 でも、美味しいと感じたのはこれが初めてですな。 皆きっと驚きますぞ」
「それは良かった。 最初にキングが食べてくれたから気が付けたよ。 ありがとう」
しかし、ここで重要な事に気が付いた。
…米を炊き忘れていた。
まぁ、ホカホカのご飯はマジックバッグに幾らでもあるから炊き立てでは無いが問題は無いだろう。
俺達は笑顔でスタミナ丼の仕上げに取り掛かり始めた。