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第二百七十二話

「ふんっ!!! 避けないとは言ったが…。 対処をしないとは言っていないぞ。 その安直な打ち込みは慢心であるか…それとも」


「これは軽い打ち合いだと先ほどテイル様が仰っていました。 ですので胸を借りるつもりで真正面から打ち込ませて貰いました…。 しかし、ただの腕力だけで押し切られてしまいましたが」


メイカ…あれは単なる腕力でも身体強化でもないよ。

初撃は的確に攻撃を逸らし、二撃目は片手で防いでいる。

その時点でもう初撃を打ち逸らした方の腕は完全にフリーとなっており、いつでも迫撃を掛ける事が出来ていただろう。

だが、反撃をしなかったのは少しでもメイカに自信を与える為…なんだろうな。 なんとも不器用な彼らしい。


「ならば、まずは眼を鍛える事だ。 その辺は旦那様の方が詳しいだろう。 俺は感覚でしか語れないからな。 俺の技術を知りたければ、盗め」


「はい。 私は剣に生きていますから、どんな剣であっても死ぬ気で身体に叩き込みます」


「馬鹿者! 何が死ぬ気だ。 貴様が死んだらあの()()はどう思う? これまでに幾度貴様らは小僧に助けられてきた! その理由も分からぬなら剣を持つ資格など無い!!!」


「っ!!」


ふむ、言わんとしてる事も分からなくは無い。

それに、この声量なら屋敷中にまで響くだろうな…。 皆にも聞こえるって事だ。

現に彼女達は一時使い物にならなくなった訳だし。

魔王や魔神王とも彼女らが直接ぶつかり合う事だけは極力避けて来ていたから、過保護な部分もあったのかもしれないな。


「そして、小僧。 いつまでもこいつらを甘やかすな。 大事な気持ちは分かる。 だが、その気持ちだけでは馬鹿者共は付け上がるだけだぞ。 それとも、我が手で…」


は?


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ビキリ…ビキリ…と空気が震え始める。

殺気のぶつかり合いだ。 メイカは若干震えている。

それほどまでに濃密で、真っ直ぐ飛び交う殺気。


「ほう、ならば止めてみよ」


我流…()()

俺の生み出した剣技だ。 元は月影に近いモノだがノーモーションで繰り出す不可視の斬撃故に初見で対応出来る者は限られるだろう。


バキィィ!


団長の…元【憤怒】の持っていた訓練用の剣は粉々になっている。

俺の木刀が何故無事かと言うならば一瞬で付与を行いほぼ不壊と言っても過言ではないシロモノになっているからだ。


「「!!」」


団長とメイカの驚きが重なる。

しかし、俺の連撃は止まらない。

月狼はノーモーションで繰り出せる故に連発が可能なのだ。

まぁ、単発だけならば月影よりは威力が落ちているが手数で月影をも上回る火力になる…と言ったところだろうか。


「ちっ! 貴様、感情を抑えずにその力を引き出せるのか」


「主君に貴様は無いだろ? 俺は全ての感情を制御しているから、どれだけ怒っていても心の奥を平坦にする事だって出来るんだよ。 あの時から…ずっとな」


「っ! ここで負けを認めれば貴様は納得するのか?」


「する訳無いだろ」


その言葉を発した刹那…俺達の足元は氷に浸食され、身動きが取れなくなっていた。

靴だけを綺麗に凍らせて、動きだけを封じる。

相当高度な魔法の制御だな…。


「ねぇ、貴方達…? 何をしているのかしら? 屋敷の中まで全て丸聞こえなんだけど?」


それを見たメイカはくすりと笑い、俺と団長は目を見合わせる。


こうしてまたしても、俺は長時間の説教のお言葉を頂戴する事になる。


…ちなみに団長は俺よりも長い時間拘束されていたらしく、次に見かけた時にはゲッソリとしていた。


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