第二十六話 不穏な影
今の火属性の戦略級魔法【エクスプロージョン】は無詠唱だ。
扱える人物は限られて来る。
そんな高難易度な魔法を何食わぬ顔で平然とやってのけるこの老人は只者ではない。
敵ではないとは思うが油断はできないのでボロボロの身体で落とした剣を持ち直す。
「ワシは敵ではないぞ。 ここの校長のマーリンじゃ。 三賢者と呼ばれる者の一人じゃ。 聞いたことくらいあるじゃろ? ここに居る教師皆が証人じゃ」
全く敵意を感じないので僕は剣を降ろす。
「ご助力感謝します。 急な加勢だったため敵か味方か分からなかったので剣を向けてしまいました」
僕は素直に謝罪をしておく。
「それは当然の事じゃ。 良い判断だと思うぞい。 その心を忘れないようにの」
騒然としている周りの人々に対し、
「もう脅威は去ったので安心してもらって大丈夫じゃ。 この三賢者が一人、マーリンが居るのでな。 もう安心じゃ。 それに、この脅威に立ち向かってくれたこの若者もおる、もう楽にせい」
辺りがほっとするような雰囲気になる。 そこで一人の生徒が疑問をぶつける。
「面接はどうなってしまうのですか? このまま続けるのでしょうか」
おい、こんな時に面接の心配かよ!
「面接はアレに立ち向かってくれた彼を除いてワシの権限で続けようと思っておるぞ。 彼は骨が何本か折れているだろうから医務室で回復魔法を掛けてもらうのじゃ」
「わかりました」
皆納得する。
僕も正直意識を保っているのでやっとな感じなので助かる。
そして僕はそのまま意識を放しまい、医務室に運ばれたらしい。
数十分後、意識を取り戻した僕の傍には医務室の先生が居た。
「君、お手柄だったね。 君が身体を張らなければ今頃何人の命が散っていたか分からないよ」
「ありがとうございます。 僕自身必死でした」
回復魔法を掛けて貰いながら会話をする。
「いてて...。 ちょっと無理し過ぎたみたいです」
「そりゃそうだ...あんな大きなオーガの蹴りをまともに受けたんだ、はっきり言って本当だったらタダでは済まないよ。 回復魔法さえかければすぐに治るような折れ方で良かったよ。 とりあえず、今はじっとしてなさい」
それもそうか。
三メートルくらいの巨体だし、攻撃力も半端な物ではない。
僕はあんな化け物がなぜ王都の中心に突然現れたのかが一番引っかかっていた。
書物で見たことのある召喚魔法に状況的には類似しているが、だとしたら一体だれが?
そんなことを思いながら上級の回復魔法のぬくもりに意識をまた放してしまうのであった。
そしてその頃とある場所では、
「計画は失敗です。 死者は無く、事態もすぐ収束したのでこれでは...」
どこか聞き馴染みのある声が聞こえる。
「大丈夫だ、器の候補も存分にある。 魔王様復活の計画はまだまだこれからだ」
器とは、魔王とは一体なんなのだろうか。
「かしこまりました。 すべては魔王様の為に」
こんな不穏な会話が行われているのはまだ誰も知らない。