第二百六十九話
研究者とは凄いモノで…。
翌日にはボアの言語が大分分かってきたらしい。
本来なら簡単な言語しか喋れないはずの魔物だが、エルダーボアは他の種よりも知能が高く、言葉も豊富だったらしい。
あのボアが言うには他のボアも使う言葉自体は同じらしい。
言葉と言うよりも鳴き声なのでなんと言って良いものなのかは分からないが。
「パパー! ボアちゃんが背中乗せてくれたー!」
なんて足腰してるんでしょう。
ポニーか何かなのだろうか。
「良かったね。 じゃあボアも怪我しない様に優しく扱ってあげてね?」
「「「はーい」」」
龍と精霊の子供に加減と言う概念があるかはさておき…。
「マーガレット様…他にも色々な魔物の言語を把握したいのですが…」
研究熱心すぎて怖いよ。
「それは構わないんだけど、今回はたまたま俺がボアを捕まえて来ただけだから、鳥系の魔物やオークなんかは冒険者に依頼した方が良いよ。 ポーションや翻訳機の宣伝も出来るし一石二鳥だよ」
「な、なるほど。 流石はマーガレット様です。 すぐに皆に報告して冒険者ギルドへ赴いて参ります!」
君達の行動力に俺は度肝を抜かされ続けてるけど、大丈夫?
本当にぶっ倒れないでくれよ…。
自分が不遇職なんかじゃないと分かって気持ちが上がっているのは分かるが、その糸が切れた時が怖い。
うちの妻の誰かに管理させないと駄目かもしれない。
「旦那様…お客様が…」
「ん? すぐに行くよ」
一体誰だろうか。
流石にもう訪れて来る人は居ないと思っていたが…。
そう言って部屋に入る。
「お待たせしました」
「待っとらんよ」
狸爺!!!
「お、テイルが驚いてるのは珍しい! これは画家に書かせねばならんな」
「こんなところに来て平気なんですか?」
「仕事は宰相に全部投げて来たから大丈夫じゃ。 キングからの手紙を見てな? 流石に妖精王や上位精霊が居るとなれば王として挨拶せねばならんくてな…。 一応これも仕事の内…そう…仕事の…」
どんどん目から光が消えて…。
これは話を変えないとまずいか?
酒を飲ませよう。 そうしよう。
「本日はうちに泊まっていかれますか? 宰相には伝えますけど」
「頼む…」
「あ、義父さん。 良ければ新しいお酒を幾つか作ってる間に出た失敗作飲みますか? 味は悪くは無いですよ。 酒精の濃さがちょっと…」
「義父さん…!? 飲む!!! 持ってこーい!!! テイルが義父さんと呼んでくれた記念じゃああああああ!」
チョロ…げふんげふん。
味は悪くないが、度数が高いからな。
少し記憶を飛ばして貰うくらいなら、何にも悪くないよね。
「では今こちらに運ばせますね」
そう言うとキングはもう既に用意して居たらしく、数秒で来た。
容器の類もエルンスに任せて上等な物にしてあるので陛下に出した所でバチは当たらないだろう。
「では、頂くとするか。 テイルは飲まないのか?」
「俺はまだ色々やる事が残っていますので…」
「それは仕方ない。 たまには息抜きしなさい。 魂が汚れていくぞ? では…。 濃いっ! が旨い!!!」
どういう事だよ。
そうして本日もへべれけおじさんの出来上がりである。
その成れの果てを見たサリィはまさに悪鬼が如くその美しい顔を歪めていた。