第二百四十一話 夢
真っ暗な空間に俺は居た。
ここが何処かも分からない…。
そんな中だった。
たった一ミリにも満たない僅かな光を感じ取り俺は前へ、前へと歩みを進める。
小一時間歩いただろう所で違和感を感じ取る。
二つの人影がそこにあったのだ。
「君達は…?」
それに対し右の大柄の男が答える。
「俺はお前だよ。 小鳥遊祐樹だ」
それに続いて左の少年も答える。
「僕は君だよ。 テイル・フォン・マルディン…分からない?」
テイル…? 小鳥遊…?
俺にはその名前が分からなかった。
「どういう意味…なんだ?」
「馬鹿野郎。 自分で考えろ。 お前のその腰に携えた得物はなんだ? 思い出せ」
その言葉に自分の腰に目を落とす。
見覚えのある刀がそこにはあった。
これは聖刀だ。
何故だかそれだけははっきりと認識出来た。
「俺は…」
あぁ、こんな所で寝てちゃいけないな。
「思い出せたか?」
「あぁ、それはもうスッキリと。 ちょっと寝坊し過ぎたかな」
自分相手に少しおどけてみせた。
「俺はお前だ。 だが、お前はお前だ。 この事を忘れるな」
「そうだよ? 君は僕だけど、もう僕では無いんだ。 君自身なんだよ」
でもドーラに魂が二つあるって言われてたし、俺は一人で二人なんじゃないのか?
「違う。 もうお前の魂は一つだ。 お前はテイル・フォン・マーガレットだ。 俺達の記憶を持った新しい人間なんだよ」
「もう人族じゃなくなったけどな」
「あぁ言えばこう言うとこは完全に俺らしいな。 悪い所を引き継ぐなよ…。 あと、お前…働きすぎ」
それは重々承知しております。
自分にそれを言われるともうやりにくいなぁ。
「女の扱いも上手くならないとな?」
「うっ…」
「それは僕達も人の事言えないよね?」
それはそうだろ。
「痛いとこ突くなよ。 さて、寝坊助さん? こんな風に話すのはもう最後だ。 何か言っておきたい事は?」
急に振ってくるじゃん。
まぁ、俺らしいっちゃ俺らしいか。
「流石に最近働き詰めだったから疲れて寝過ぎたみたいだ。 俺は俺として…君達の分まで生きるよ。 簡単にぽっくりなんて嫌だからね」
「それは嫌味か馬鹿野郎」
「あはは、僕って成長したらこんな風になってたんだね」
その言葉を最後に俺の意識はどんどん引っ張られていく。
「じゃあな、俺」
「じゃあね、僕」
最後の最後に薄っすらと聞こえていた…。
それは狡いだろ馬鹿野郎。
「おはよ、皆」
ある者は涙し、ある者は抱き着いて、ある者は俺を叱責し…。
あぁ、これが俺なんだ。
腰の刀に手を添え、走り出す。
すると【憤怒】にぶん殴られ、元の位置へと戻される。
「寝起きで戦場に出る馬鹿が居るか! 顔を洗ってから出直せ!」
えぇ、良いムードだったじゃん…。