第二百四十話 奮起
「陛下!!! 伝令です!!! 早馬が来ました!!! ご息女達が目を覚ましました!!! また、マーガレット英雄爵が【憤怒】と共闘、そして見事敵を討ち取ったと!!! 残すは残党のみ!!!」
その報告に思わず陛下と宰相は立ち上がる。
だが続く言葉に絶望してしまう。
「しかし、マーガレット英雄爵は討伐後から意識を失い…。 残党狩りは賢者や騎士、大罪達が行っているとの事です」
「うむ、分かった。 下がって良い」
「はっ!!!」
テイルよ、お前はそんな所で死ぬタマでは無いだろう?
どうしてこんなに不安が押し寄せる。
どうして無力なのだ!!!
「陛下、うちにも同様の報せが来ていた。 不安だろう? しかし我々の義息子がそんな顔を見たらどう思うだろうか?」
公爵…。 こんな時に!
「だからと言って戦場に赴ける訳でも無い。 騎士達は向かわせた。 一体何が出来るんだ!」
「黙れ。 王たる者なら家臣の行いに胸を張れ! 家臣を信じろ! そして何より家臣以上に彼は…我々の義息子なのだぞ? 家族を信じられないのなら貴様は王としても家長としても失格だ!!!」
「クリスエル公爵…お気持ちは分かりますが…どうかその辺りで」
「ならぬ! 貴様は私の義息子を愚弄している。 強敵を幾度も屠り、彼の大罪をも味方に付ける様な男を信じれずに…何が王か! 何が人の父か!」
「そうだな…」
王のその呟きに宰相は何も言葉が出なかった。
否、言葉などとうに無かったのかもしれない。
公爵は床に座るとある瓶を取り出す。
ドンッ!
「これはテイルが私にとくれた酒だ。 その名もラム酒と言うらしい。 飲むぞ愚王」
「…この状況でか?」
「テイルから聞いた話がある。 祝い事に酒は必須だとな」
「テイルの帰還を信じろ…と?」
「あのバカ義息子がいつ負けたと? いつ死ぬと?」
その瞬間に扉が開く。
「陛下…うちの息子を勝手に殺さないでもらっても良いですかな?」
テイルの父であるアレクが入って来た。
「閣下の計らいでここまで来ましたが些か陛下はうちの息子を侮っている節があるようだ」
「…何?」
「うちの息子はもう人と言う範疇を超え神の域にまで達しているのです。 そして、勇者だ。 勇者とは何か…貴方が一番ご存じでしょう?」
「転生者と言う事は知っている。 そして、転生者以外にもかつて旧王国には勇者が居たと…」
「陛下は存外無知な様だ。 【憤怒】はその旧王国時代の勇者…。 そして、大罪にはその時代の勇者パーティが含まれている」
自分の知らなかった話をされて驚く陛下。
「父上、そのお話は事実でございます。 先ほど他の王族達とあの場所にて確認致しました」
「アルス…。 しかし…」
「父上。 ならば窓をご覧下さい」
陛下が窓へと近付く。
すると見知った音が辺りを木霊する。
あれは花火だ。 テイルが王国に広めた…。
「さぁ、民よ! 勇者であるテイル・フォン・マーガレットの勝利を祝うのだ! そして彼の凱旋はこれ以上のモノにしてやろうじゃないか! さぁ叫べ! 我らの勝利を!!!」
うおおおおおおおおおおおおおお!!!
民のその雄叫びが、王である彼の心を取り戻すのは当然の結果であった。