第二百三十四話 新旧の勇者
「行くぞ下郎」
空を蹴るなんて荒業、これを錬金術無しでやったぞ…。
地の力がケタ違いなんだがこの人。
「なんだよこれ…。 俺要るか?」
「ボケッとしてないで加勢しろ。 一気に畳みかけねばならぬ。 時間が経てば再生速度まで上がる事があるからな」
嫌な情報をそんなしれっと言わないで貰っても良いですか…。
なら俺は俺なりに詰めて行こう。
複数の属性魔法を模倣した物を複数同時行使する。
そして射出。
その瞬間に錬金術で壁を作りそれを蹴る。
「ふむ、空気の壁より土の壁の方が加速しやすいのか」
「今の状況なら土の壁で良いかなと。 蹴る力が強いだけでなく、今ならどこに飛んだか読まれても大丈夫ですから」
「なるほど。 二人居るのを活かすか。 良い判断だ」
「てめぇえええらああああああ!!!」
俺達が近付いた所で【嫉妬】のドス黒いオーラが噴き出す。
それに俺達は弾かれてしまう。
「チッ! 間に合わなかったか」
「これは?」
「奴の覚醒状態…。 魔族で言えば狂化だ」
なるほど。
それは面倒かもしれない。
だが…。
「察しの通り元々奴は狂っているからな。 ただ単に強くなっただけだ」
魔法も使うしか無さそうだ。
まずは…。
鎖系の魔法を幾つか放ち、同時に詰める。
「このオーラを斬るのは任せろ」
「頼みます」
息を合わせた様に【嫉妬】の眼前で交錯する俺達。
【憤怒】の使う剣術には覚えがある。
あれは…王国の騎士流剣術だ。
「羽虫共がぁ!」
オーラの無い【嫉妬】なら俺でも斬れる。
「月影一心流奥義、月影」
獲った。
その確信が俺にはあった。
しかし…。
「痛てぇよぉ…。 首が無くなっちまったぁ」
首無しになったのに全然ピンピンしてるどころか…。
なぜ首が無くて喋れる!?
「ここまで来ていたか…拙いな」
バチ…バチ…。
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ時間を稼いで貰っても?」
「構わん。 この程度の輩に後れを取る事はない」
天空が音を立て始める。
また使う事になるとは思わなかったけれど。
神の威光…そんな物の再現をしていたらいつか身が滅びそうで怖いが。
バチリ…バチリ…。
一度で世界をも破壊出来るそれを【嫉妬】のみに収束させる。
「もう大丈夫です。 退いてください!」
【憤怒】のバックステップの速さと距離に一瞬驚きが隠せなかった。
だが、今はそこはどうでもいい。
「雷霆!!!」
超巨大な雷の柱に【嫉妬】は打ち穿たれた。
以前放ったモノよりも火力が増えてしまった。 これは調整に失敗したか?
「呆れるくらいの火力だな」
「これでも調整はしたんですけどね…」
その時世界が露わになる。
「ゼェ…ゼェ…」
まだ生きてるのかよ…。
だが、回復もままならない、呼吸すらも精一杯なダメージが入っている。
これなら形勢逆転も可能な気がしてきた。