第二百三十三話 死神
「テイル君!? あれだけ強化してもこのダメージって…」
「これは最悪かも知れないわ…。 せめてテイルが戦線に復帰出来るまで粘れれば良いけど」
万能薬を飲んでもすぐに復帰出来ない程のダメージの大きさに皆が絶望に陥る。
それを遠目に見ていた賢者や他の大罪達も驚きを隠せる訳も無く…。
「なんや…アレ」
「【嫉妬】の奴…これは流石に…間に合ってくれよ…」
【暴食】だけは達観していた。
自分なら止めれると自負もしている。
「アイツには約束果たして貰わねぇとな…死ぬなよ」
「約束? なんの事じゃ」
「飯だよ飯! 美味い飯食わせて貰うんだよ」
メイカは怒りに震えていた。
悔しさに嘆いていた。
どれだけテイルに迷惑を掛けたかと自分を責めていた。
「メイカ! 私が全力のバフを掛けるから貴女が時間を稼いで! マリアはテイルの回復を」
「「はいっ!」」
テイルさえ居れば…と、皆が思っていた。
「瞬閃!!!」
「チッ! 面倒な!」
「銀ノ弓…」
ナナの弓は流す魔力の性質を変えれば弓自体も変化する。
そうナールムから聞いていた。
そして銀弓を扱う神の話も。 しっかりと覚えていたのだ。
「なんだよこれは…!」
避ける事の出来なかった【嫉妬】は分の変化に気付く。
病を患った様に身体が重く、だるくなっていく。
「どっせえええい!!!」
エメリーの渾身の一突きを、ギリギリで避けようとするも右肩にあの槍が突き刺さる。
「クソが! クソが! クソが!」
状況がテイル陣営に好転すればするほど【嫉妬】は狂う。
そして、強くなる。
一瞬、たった一瞬で。
「何よ…。 パッと見もう全回復してるじゃない」
「アレを相手にしていてはこちらの体力が…」
だが、その絶望に満ち始めた戦場に重い足音が鳴り響く。
テイルの心臓の音色の様に強く強く響くその音に、皆の視線が向かう。
「【嫉妬】よ…。 貴様は狂い過ぎた。 そして、壊し過ぎた。 今も、昔も何も変わらないのだな」
「【憤怒】ゥ!!! この裏切り者がァ!!!」
「黙れ、下郎。 英雄の魂を奪い、自分が一番になろうなど言語道断。 そして、そこに寝ている坊主…起きろ。 お前は後輩だろう」
「…ちょっとくらい寝かせて貰えませんかね…。 流石に寝不足続きでしんどいですよ」
元聖剣の刀を抜き、俺は【憤怒】の横に並び立つ。
「この期に及んでふざける余裕があるとはな。 聖剣が同じ戦場に二本揃うとはな。 いや、其れは聖刀…とでも言うべきか。 まぁ良い…彼女らを退かせろ」
「冗談言わなくなったら俺が俺じゃなくなっちゃいますよ。 聖刀…良いですね。 さ、聞こえてたよね? 皆はマーリン様達の所まで下がってて」
「っ! ですが!」
「良いから下がって」
俺の強めの言葉に妻達はゆっくりと後退して行く。
「後で優しくしてやれ。 厳しいばかりだと俺の様になる」
「そうですね…」
「そろそろ良いか? こっちは待ってやってんだよ」
大きな鎌を持った漆黒の容姿はまさに死神そのものだった。




