第二百二十九話 太古の英雄
「誰かと思えば大罪のお方でしたか」
炎を纏った男が声を掛けて来た。
「へぇ、思ったよりも手応えは無さそうだ…。 本気を出すまでも無いのかな」
「随分と辛辣ですな…。 これなら如何か?」
魔人化ね。
精霊でも魔人格があればそんな芸当が出来るのかぁ。
「残念だなぁ。 この程度の魔力で…この程度の練度で…。 はぁ…。 本当に期待外れだ。 私の相手をするには残念ながら足りない。 一度や二度死んだところで追いつかない程に…ね」
「…狂え」
「だからさ。 その程度の練度では意味が無いんだよ?」
「貴方からは微量の魔力しか感じ取れませんが?」
「あぁ、そうか…。 無意識に魔力を制御して抑えてるんだ、これでどう?」
膨大な魔力を感じ取った相手は思わず引き下がっていく。
「なんなのだその魔力は…! 我は炎の精霊シャイターンであるぞ! 貴様の行いは決して許される事では」
「黙れよ羽虫風情が。 ゴタゴタ抜かすな。 アンタは精霊ってよりも魔人だよ。 自覚して大人しく絶望の淵に堕ちろ。 我が魂は魔である、我が身体は刃である。 さあ、踊り狂え…ブレイドダンス」
魔法陣から召喚された無数の剣が魔力の制御により手足の様にくるくると舞い始める。
「なんなのだこれは!」
「賢者の必殺技みたいなものだよ。 魔法剣…剣を召喚し魔法で操り敵を滅するってね。 じゃ、ネタバラシも済んだから…サヨウナラ」
シャイターンの居た場所に転がっていたのはそいつの魔石と魔核だけだった。
「あら、首くらいは残すつもりだったんだけど…。 強いって言うのも困りものだね」
そっとソレを拾い上げ、【傲慢】は転移した。
コツコツ…。 石畳を歩く音が鳴り響く。
「珍しい来客だねェ」
声を掛けて来たのは炎の巨人。
「来客? いや、下郎に迎えられるのは気分が悪くなるのでな。 さっさと済ませて帰らせてもらう」
「ボクを倒す? 良いね。 やってみてよっ!!!」
大きく振りかぶり地面を殴り付けた炎の巨人。
「なっ!」
「【暴食】に剣を喰われたからな。 久しぶりにコイツを出したぞ」
黄金に光り輝く長剣。 鞘は赤くギラギラと光り威圧感を放っている。
「なんだい? その剣は」
「聖剣フォージ。 俺の相棒だ」
「聖剣? まさかオマエは…」
「気付くのが少々遅いぞデカブツ」
「な! デカブツなんて呼ぶな!!! ボクにはマリードと言う名が…」
喋り過ぎて腕が斬り落とされている事に気付くのが遅れたマリード。
「ぎゃあああああああ!!!」
「痛みを感じるか。 そうか。 本来ならば苦しめられた者達の分まで罰したいところだが。 時間が惜しい。 さらばだデカブツ」
魔石と魔核を拾い、走り出す【憤怒】
久しぶりの聖剣にむず痒さを感じながらもその表情はどこか嬉しそうなものであった。