第二百二十七話 炎喰らい
「ふん。 この程度の奴らでは足止めにすらならんか」
「てめぇ、さっきの奴らは捨て駒ってワケか」
「さて、どうだかなぁ。 忘れてしまったな」
こいつ本当に性格が捻じ曲がってるよ。
「もう喰っちまっても良いよな。 【憤怒】じゃねぇけど腹が立つわ」
「良いんじゃない? 腹壊すなよ」
「舐めんな。 んなヤワじゃねぇよ」
悪食を行使するもジンには一切効果が無い様だった。
それを確認し、ジンは不敵に笑みを浮かべる。
「どうだ? 美味かったか?」
「オイオイ、どういうこった…」
あぁ、なるほど。 鑑定が出来ない理由もきっと…。
俺はただのミスリル合金の刀を取り出しジンに対し一閃。
刀の角度を調整しどんな刀か分からない様にしたのでベルゼビュートに斬られたと思ったのか無抵抗だった。
舞い散る血飛沫…。 その刹那確証に変わった。
「お前その身体…一体誰の物を奪ったんだ?」
「人の身とは不便すぎる物だな。 まぁ良い…。 特別に教えてやろう。 この身体は貴様の妻のメイカ・フォン・ディッセルの祖父の物だ。 そしてこの身体を壊せばその爺の魂もそのまま壊れるだろうな?」
「ならお前だけ斬れば良いじゃないか」
「出来る物ならやってみれば良いだろう? つい先ほどそこの大喰らいが試したが無意味だった様だが?」
やはりそうか。 こいつはジンでは無い。
だとすると一体誰だ? ジンを騙り、悪行を行う…。
「オイ、テイル…多分斬れるぞ」
「丁度俺もそう思った所なんだよね」
あいつは上手く偽装しているがあれは魔力だ。
なら、魔力をベルゼビュートで喰らえば良い。
「わかってんじゃねぇか」
「でも…、変だな。 この魔力の属性…」
「テイル君。 これは火…いや、炎だね」
なるほど、だとしたら絞れる。
でもまだ分からない。
「おい、ジン。 お前は誰かの命令で動いてるのか?」
「…」
流石にこちらが勘付いている事に気付いているらしい。
でもその沈黙は悪手だ。 更に高位の存在があるとするならば可能性は二つ。
賭ける価値はゼロじゃない。
ゆっくりとジンに歩み寄っていく。
「ベルゼビュート…イフリートを喰らえ」
そう呟き一閃する。
一瞬にして喰らい尽くした様だ。 本当なら対象を指定さえしていれば声に出す必要は一切無い。
「今まで気が付かなかったがこの能力って対象指定しないといけねぇのかよ…」
「普通ならもっと雑な指定で良いはず…」
「なんでそんな細けぇとこ気付くんだよ」
「俺が知りたいかな」
すると、マーリン様が吹き飛ばされて俺の横を通り過ぎて行った。
意識を取り戻した【嫉妬】だったが俺達…特に俺に対する嫉妬の念は消えていない様で戦意をあらわにしてこちらを睨みつけている。
「【怠惰】、【暴食】…悪いんだけどここに居る皆連れて撤退して。 アレは流石にヤバそう」
「仕方ねぇな。 美味い酒用意しろよ」
ここからはまともな戦いになると良いんだけれど…。