第二百十七話 隠密
キングに隠密行動に長けた者を数名選抜してもらった。
勿論魅了に耐性のあるヴァンパイア達からだ。
【色欲】の動向次第では…。
「旦那様、情報が入りました。 【嫉妬】が帝国の様々な街のスラムの人間を仲間に…いえ、奴隷として戦力に加えている様です」
「は?」
「しかもおかしな事に何かに魅了されるかの様にみな従順に付き従っているのです」
おいおい、ちょっと待てよ。
だとしたら俺の仮説が当たってしまうんじゃないのか!?
「旦那様、心してお聞きください。 【嫉妬】と【色欲】は二人とも混ざり合って二つに分かれています。 それが元からなのかは定かではありませんが」
「彼らはジンって言う君の敵に魂を売ったんだよ。 気付かない?」
「【怠惰】…」
「人工魔族を生み出したり、世界を超えたり、人の魂に関与したり。 そんな事が出来る者達ならば出来てしまって当然だろう?」
「お前何か知ってるな?」
「あぁ、僕も声を掛けられてたからね」
身構える俺。
こいつも敵なのかと錯覚してしまう程気が張っている。
「いや、勘違いしないでくれ。 僕はあんな訳の分からないのと仲間になるつもりはない。 ただ…前勇者を救ったと言う君ならば【嫉妬】と【色欲】を救い出せるんじゃないかい。 いや、僕は君だからこそ期待したい。 彼らは、僕にとって一応は数少ない仲間なんだ」
「可能性はゼロでは無いけど、失敗のリスクはデカいぞ…」
「あぁ、でもやらなかったら彼らはどうなる」
「俺らに討伐されるまで苦しんだままだろうな」
「それは僕だって心が痛いんだ」
「それは本心か?」
俺は真意を問うた。
「いや? 彼らに恩を売ればこちらの利になるからさ。 それに、助けられたら彼らだっておいそれとちょっかいも出せなくなるだろう? いざと言うときは用心棒だってしてくれるし、win-winじゃないか」
「お前腹黒過ぎだろ、てか仕事押し付けてやんなよ」
「仕事を与えるのも上司の務めさ」
「いつから上司になったんだよ…」
「…良いじゃないか。 僕はこう見えて序列が下なんだ。 普段のお返しくらいさせてくれてもバチは当たらないだろう?」
私怨じゃねぇかよ。
それで領地にカチコミ来られたら本気で【怠惰】を追い出すところだったぞ。
「さて…皆の様子を見に行くか」
「…よろしいのですか?」
「あぁ」
レジストの比較的強かったマーリン様、ナールム以外は魅了が強く掛かってしまい、精神的な負荷がとても大きくなり昏睡状態になっている。
いつ目を覚ますか分からないそうだ。
ちなみにマーリン様の見立てでは魅了時の記憶は残っていてショックも大きいだろうとの事。
まぁ【怠惰】も居たし大丈夫でしょう。
「テイル君。 彼女達は目を覚ますよ。 魅了に掛かりながらも自我で抗っているのを感じていたからね」
「と言うか、魅了の事教えてあげたら解けただろ」
「それは君こそ」
「確かに。 でも、あのレベルの魅了を途中で解いたら流石に怖いか」
「そうだねぇ、何が起こるか分からないよ」
「先輩、【怠惰】さん。 お茶持ってきましたよ。 マーリン様から、一応伝言で「ヴァンパイア達の調査により【嫉妬】、【色欲】両名に龍級の魔石が埋め込まれている反応を確認した」と」
魔王化の原因がそれだとしたら、きっと【嫉妬】も…。




