第二百十六話 回り出す歯車
「旦那様…この状況はいつまで静観なさるおつもりで?」
「このまま黙ってるつもりは毛頭ないさ。 けど、【嫉妬】の動きが怖すぎて手が出せないって言うのが確かかな。 ていうかキングのレジストが完全には効かないなんて流石は【色欲】だね。 俺の周りの子が全員おかしくなってるなんて」
「えぇ、無理矢理この爺の血を皆様に分ければもっとレジスト出来ましょうが…向こうに悟られるかと」
「うん、そのままでいいよ。 別に少し監視されたりしてる程度で害はないからね。 多少の情報漏洩は痛くないよ。 正直、敵に回したら厄介なのはキングと【怠惰】、マーリン様くらいかな。 攻撃しにくいって意味なら全員だけど」
「それは何とも嬉しいお言葉ですな。 しかし、【色欲】はなぜこちらに仕掛けて来たのでしょう」
それは俺には分からないが、まぁあまり良い印象はないが…。
まぁ…今はこの機に応じてジン達が仕掛けて来ない事を願うくらいか。
「分からないけど問題は山積みだね…。 これはちょっと面倒かなぁ」
「あらぁ、面倒ならそんな事放り出してもっとイイ事しましょ?」
おいおい、【色欲】登場かよ。
気配なかったぞ。 と言うか窓から入ってこなかったか?
確か飛べる種族だっけ…。
「旦那様…。 ここは爺が相手致しましょうか?」
「いや、大丈夫。 もし、俺に魅了が掛かるのならもう掛かってないとおかしいし、それに【色欲】じゃ俺は殺せない」
「…ケツの青いガキが随分と私をナメてくれてるわね」
「そっちが常時俺達に魅了を掛けて来るからだろ? 効きもしない魅了なんてするくらいなら剣でも握って首を落とそうとした方がまだ勝機は上だぞ?」
「…なぜ私の魅了が効かない」
「【色欲】が女である以上は状態異常無効のアイテムは常時身に付けてるさ」
何を当たり前な事を言ってるんだ。
「そんな物で防がれてしまったのか…私の…」
「キングがレジストしてくれてるから相乗効果だろうね」
「なら何故お前は自分の妻達にはそのアイテムを持たせなかった!」
なんだこいつ。 しつこいな…。
「正直に話すとお前が女だから俺にしか効かないと思ってた。 と言うか対象は俺に絞ってくると思ってた。 だから不必要と判断した。 これに関しては正直不用心だったと思ってる。 ところで、その魅了は解除してもらって良いかな。 それと、対等な交渉がしたい」
「魅了は解除してやる。 しかし、交渉に応じるつもりはない。 そして、お前を絶対に殺してやる」
この時俺は【色欲】に違和感を覚えていた。
キングに目をやると軽く頷いたのでキングも同じだろう。
「わかったよ。 その時は全力で迎え撃たせてもらう」
帰っていく【色欲】…その魂にはドロドロとしたナニカが生まれている事は確かだろう。
「キング、あれって…」
「えぇ、旦那様の想像通りかと」
「魔王化してるし意識が呑み込まれかけてる…か」
「あれではあまり正常な判断が出来ないのでしょうな…いつ【嫉妬】をけしかけて来てもおかしく無いかもしれませぬ」
確かにそうなるな。
これは結構一大事だ…しかし、皆の魅了が解けたのは非情に大きいだろう。
「というより大罪で魔王ってやばくないか」
「多分歴史が動くかと…」
「俺、トラブルメーカーでは…」
「…爺は何も言いませぬ」
おい、そこは何か言えよ。