第二百十五話 大罪の隠れ家
「なぜだ! あの【強欲】をも簡単に倒したと言う奴にあいつは懐柔されているのだ!」
「それこそが怠惰と言うことだったのだろう? 奴らしいじゃないか」
「それが分からんと言うのだ! 我らは大罪であるぞ!!!」
「これでは憤怒じゃなくて激怒だな」
「【暴食】よ…! 貴様も隠れて人間共の餌を喰らいに街へ行ったりしているらいしじゃないか! 貴様らには誇りと言う物は無いのか!!!」
何を言い出すのだこの馬鹿は。
俺達は偉い存在でもなんでもないぞ。
「勘違いするなよ。 ただ俺は上手い飯が食いたいだけだ。 【憤怒】…貴様に人間を超える飯が作れると言うのであれば俺は別に人の街に行く事も無くなるかもしれねぇな? でも勘違いすんじゃねぇ、俺とお前は別に仲良しこよしのお友達じゃあねぇ。 好き好んでお前が世界一美味いモンを作ったとしても食うかは別だ。 つまり、俺は人の街に行くのを止めねぇ」
「ならば、今ここで楽にしてやろう。 抜け」
大きな大剣を二振り構える【憤怒】
このスタイルで戦うのは遥か昔のそれこそ伝承レベルだろう。
「あぁ、俺ってそういえば直接戦ってる所お前に見せた事ねぇか…。 わりぃなぁ。 俺は武器って持たねぇスタイルなんだよ。 あぁ、別に手加減だとか貶してるとかはねぇから」
「そうか、ならさっさと消えてしまえ」
「残念だなぁ。 ご自慢の武器が喰われちまってよ…。 悪食」
「固有能力か…」
「いや、ちょっと違うんだよ。 俺はねぇ。 俺自身が固有種族で固有武器なんだ。 レマルゴス」
「だからと言ってよりにもよってこの大剣二振りも喰らうか」
「俺はその気になればなんでも喰えるんだよ。 喰わないだけでこの星だって、いや…すべてまるごと吞み込めるぜ」
チッ…っと舌打ちをし、後ろにあるソファにもたれ掛かる【憤怒】
「バケモノめ」
「わりぃけどよ、おめぇら気付いてねぇだけで相応の事は出来るんだぜ?」
「ほう」
「ま、【怠惰】はそれを知っててあの小さな英雄の元に行ったみたいだけどな」
「なんだと?」
「自分で考えろよ。 むしろ【傲慢】と一緒に英雄のとこ攻め入って見極めて来たらどうだよ。 まぁ殺されたら知らねぇけど。 助けもしねぇし。 あの英雄、正面からやりあったら多分俺負けるし」
最後の一言で【憤怒】は驚愕していた。
【暴食】に正面からの戦闘で圧倒されたのに、その【暴食】が正面からだと負けると言うのだ。
勝てるビジョンが見えて来るはずもない。
「あぁ、そう言えば、【嫉妬】が動きそうだなぁ」
「確かにコソコソと何かしていたな」
「あぁ、そう言えば大罪で一番強い奴が誰か知ってるか?」
「いや、ずっと俺だと思い込んでいたが今さっき思い知らされた」
「じゃあこれやるよ。 遠見の魔道具って言うらしいぜ? 人間の街で買って来たんだ。 これでも人間の街で冒険者やってるから稼ぎあるんだよな。 まぁ、座標は面白そうなモノが見れるだろう場所を指定してあるから、見ておくと良いぜ」
しばし怪訝そうな表情を浮かべる【憤怒】
「質問の意図も、何が見せたいのかも全く分かないが…。 まぁ良いか。 ありがたく貰おうとする。 お前に怒るのも疲れた所だしな」
「ま、じゃあお互いにあまり干渉はせずに居ようぜ。 その方が良いだろうよ。 それじゃあな」
そう言って部屋を出ると【暴食】は買っておいたサンドイッチを食べながらもう一つの遠見の魔道具を取り出した。