第二百十二話 誕生日
とある日のお昼にマキナに呼び出されて中庭へと向かう。
「テイル(君)(ちゃん)(様)! 御誕生日おめでとう!」
忙しくて自分の誕生日の事を失念していた…。
しかも、良く見ればミザリア母様や、兄上も居るではないか。
まぁ父上は領地の事があるので仕方ないと思うが。
…とは言ったが何故陛下と宰相閣下…までそろって手を振っていらっしゃるのだろうか。
「いやはや、息子達も来たいと言っていたが…流石に公務をサボらせるわけにもいかぬのでな」
まず陛下は一度鏡を見てから喋って頂きたく存じます。
とは口には出せないが思う分には良いだろう。 きっと皆思っている。
「あれ? ルルファも来てくれたの?」
「お久しぶりでございます。 テイルお坊ちゃま…いえ、マーガレット英雄爵様のお陰で息子…いえ、サイドお坊ちゃまとの関係が元に戻りました…。 心から感謝しております」
「公式の場では無いのだし母子として接してあげれば良いんじゃないのかな? ねぇ兄上?」
「あぁ、ずっとそうして欲しいって言っているんだけれど…」
どうもまだ完全には払拭はしきれていないらしい。
「テイル~? サプライズなのにあまりびっくりしてないじゃない。 これじゃ骨折り損よ」
「いやぁ…。 正直驚き過ぎて逆に感情が消えたっていうか,,,」
「そう? それなら良いんだけれど」
これは本当だ。 驚きすぎるとリアクションが薄くなってしまうのは昔からの癖みたいなモノで、悪気があるわけではない。
まぁ、月影一心流の訓練中に心を余り乱されない様にする為に色々してたのも原因かもしれないけれど。
「あぁ…。 って言うか良くまぁこんなに人が集まったね。 って言うかゴードンさんとエメリーのお父さんは仕事サボって来てるだろうし、ナナのお父さんのデラさんに関しては長の仕事大丈夫なの?」
「えぇ? きっと大丈夫ですよ…。 あぁ、それより美味しいお酒があるって聞いたんですけどどこで飲めるんですかね?」
この人キャラ変わってないか?
酒が絡むと厄介になる人なのか? だとしたらちょっとこの場から逃げねばならないが。
生贄にマーリン様でも置いておこうか。
「ワシは厠でも行ってこようかの」
先手を打たれた。 この狸爺はやはり心が読める。
「おい、おめぇエルフなのに酒の味が分かんのか」
「…ドワーフ…ですか。 お酒の事に精通していらっしゃるドワーフの方々ほどお酒の味が分かるかと言われたら微妙なところですが、多少はお酒が好きだと自負していますよ」
おい、エルンスやめろ。 絡むな。 ゴードンのおっさんもこっちに近付いて来るな。
戦争でも起こすつもりか。
「てめぇ…。 良いエルフだな。 気に入った。 この酒飲んでみろ。 若…いや、マーガレット英雄爵から盗ん…いや、貰ったモノでな。 まだまだ試作段階らしいんだがすげぇ美味いんだ」
「ドワーフに気に入ってもらえるとは鼻が高いですね。 ただ…何やら聞き捨てならない言葉が聞こえましたが…。 では失礼して…。 っ!? なんですか、これは」
まぁ、戦線を離脱するには良いモノを持ってきてくれたエルンスは十分な戦果を成し遂げたと言っても過言では無い。
止めなくて良かったよ。
まだ種族間の諍いはあるだろうけれどああやって何か共通の物で繋がっていくのならそれはそれで良いのかもしれないね。
なんて遠い目で考えていたんだ。 そう、ちょっとの間だけ。
「テイル? あの酔っ払い達どうするの?」
数人の酔っ払い集団が出来上がっていた。
その中には陛下や宰相閣下の姿も混じっており、俺は天を仰いだ。
「お父さん…」
「陛下…」
夜にはキングが全員を送り届けてくれたらしく、相手方には相当感謝されていたらしい。
キングが居なかったら全員うちに泊まって居たと考えると…いや、考えない方が良いだろう。




