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第二百六話 試飲

色々な試行錯誤を行ううちにサカイとの流通はもちろん、クリスエル公爵領や教国などとの交易も盛んになって来つつあった。

そして一番驚いたのは現在総出で立て直しを行っている帝国もうちのマーガレット領と頻繁に交易をおこなってくれる様になっていたのだ。


なんでもさる令嬢が動いているとかなんとか…。


「若…率直に言って良いか?」


エルンスが神妙な面持ちで話しかけて来た。

今日は丁度手が空いた状態と言っても過言では無いので話くらいなら聞けるだろう。


「ドワーフの職人達の多くはこの街に移り住んできたかもしれねぇ。 でも、人族とドワーフ…いや、異種族間ってのは中々相容れたモンじゃねぇ。 今は上手く街の冒険者達がバランスを取っているが…。 これからもっと街がデカくなったらトラブルが起きる事は分かってるのか?」


「指摘してくれて助かるよ。 俺としてはこのマーガレット領に自分と種族が違うからってトラブル起こす様な輩には居てほしくは無いから対策はするさ。 とりあえず、エルフ、妖精、ヴァンパイアの移住は正式に俺の権限で認めたし住民も快く返事してくれたからさ」


むぅ…。 と唸りを上げるエルンス。


「確かに種族の垣根を超え、色々な物を作れて美味い酒にありつける。 ドワーフにとって最高な環境なのかもしれない。 だが、エルフ達との諍いは忘れられんモンも確かにおるのも事実…」


「エルフ達と住む区画を分ければ良いんじゃないの? 別にドワーフは職人、エルフは狩人や研究者。 一つ屋根の下に居る訳じゃないんだしさ」


「ナナに対してだって嫌な顔しなかったじゃないか」


黙り込んでしまった。

ちょっと攻め込み過ぎたか。


「はぁ…正直、隠れ里の偏屈ジジィ共が苦手なんだよ…」


「はっきりそう言えば良いじゃない…」


「いやぁ…なんか…負けた気がして仕方なくてな」


負けず嫌いか!

ほら、遠巻きにナナさんも冷ややかな目で見てますよ…って、ナナさんはいつから居たんですかね。


「お、ナナお嬢じゃねぇか。 こっち来たらどうでぇ」


「エルンスおじちゃんなんでいつもその喋り方なの…?」


「あのな、ドワーフの中でも比較的若い方だからおじちゃんってのはやめて欲しいって言うか、お兄さんっていうか。 喋り方は職人は皆こうなるもんだろ」


エルンスは変態認定しておこう。

あと職人だからってそうなるわけではない。 一部の選ばれし者なのだろう。


「ところで隠れ里の方々はどういう所だったら満足してくれるのかな?」


「ん? あぁ、多分モノが作れて、酒が飲めりゃ文句言わねぇと思うが…」


「じゃあ家造りはエルンス達に任せようか。 人数が多い様ならマンションタイプにしておいて」


「あいよ!」


とりあえず、その話が落ち着いたあとは以前【怠惰】達と共同開発したウィスキーの試作品をエルンスに与えてみた所非常に好評で仲間のドワーフを集める非常事態に陥ってしまった。

樽に関してはオーク木に極めて似ているこの世界にしかないローク木と言う物を使ってみた。 熟成に関しては魔法や錬金術などを駆使し様々なパターンを試した。


「これが新しい酒か…? なんか変な色してるな」


「匂いは良いぞ、酒精が匂いから伝わってくる!」


一人のドワーフが耐えきれずに飲んでしまう。


「旨い! なんだこれ、オイラの飲んだ事無い火酒だ! 若! もっと無いですか!!」


「いや、駄目だよ、試飲だから。 と言うか感想を頂戴よ」


「では、僭越ながら…。 ふむ、喉に来る刺激は火酒そのもの…そして若干甘くて芳醇な香りが鼻腔で軽やかながらも存在している…。 バニラの様な香りもする気がしますね。 素晴らしい」


ドワーフとは思えぬ冷静な着眼点だ。 酒の事だからだろうか。


その後はのんべえ達からのおかわりコールから逃げるので精いっぱいだったのは言うまでもない。


次に試飲を頼むならジャービル様とマーリン様にしておこう。


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