第二百話 王族襲来 【閑話】
「こほん…大変美味だった」
「へ、陛下?」 「陛下!?」
きょろきょろと辺りを見る陛下。
周りを見渡した後に自分の皿を見渡し、皆の皿を見る。
陛下はしまった! と言う表情になり手で顔を覆う。
「陛下? そうでは無くて、まずテイル殿に味の評価をしてあげたらどうですか? きっと待ち望んでいるはずですよ?」
「いや、美味と言っただろう?」
「貴方は一国の王ともあろうに語彙力の欠片も無いのですか? それとも臣下に言葉を一つ掛けてあげられない愚王なのですか?」
「…とても素晴らしい料理なのは間違いない。 まずは何よりもシンプル、具材が少ない為に全ての調和が整っているのだ、よって口の中で手を取りダンスをしている様な錯覚に陥ってしまった。 それと油を感じるのにギトギトとせずに食べられる不思議な感覚だった為手が止まらず、気付いたら完食していた。 一つ疑問なのだ…。 これだけ美味いのに上品さを一切感じない…」
「陛下…それは困窮した冒険者なら食べた事のある魔物食材を利用しているからです!」
一同が飛び退いた! まるで熟練冒険者みたいな動きだ。
卓越している…。 身体強化を使用していないとはまるで思えない。
「テイル! なんてものを食わせる! 確かに美味かったが! 魔物って食って平気なのか!」
「陛下…もう一心不乱でお食べになられたじゃないですか。 と言うかマーリン様はいつも食べてたでしょう?」
「そうじゃった、つい…。 ところで陛下。 ワシらも食べて良いかの?」
「む? 皆、食べて良い」
と言った瞬間に扉が開かれる。
入ってきたのはアルス第一王子殿下、ジュエル第二王子殿下、ガーネ第一王女殿下、ヒスイ第二王女殿下だ。
王族襲来だ。
「父う…陛下! 何をやっていらっしゃるのですか! あと僅かな時間で緊急の謁見があるというのに! 王城を何やら美味しい匂いで包み込んで! 執務室で騒いで! …マーガレット卿...マーリン様…!」
物凄い剣幕でまくしたてていたアルス第一王子殿下が尻込みし始めてしまった。
陛下が犯人だと思って怒って皆で乗り込んだら犯人が多分俺だったって感じだろうか。
「アルス第一王子殿下、ジュエル第二王子殿下、ガーネ第一王女殿下、ヒスイ第二王女殿下、お久しぶりでございます。 此度の騒ぎの原因は私にございます…。 何卒陛下へのお怒りをお沈め下さいますよう…」
「そうでしたの。 ところで、バトラーや料理長.,.マーリン様の持っている物がこの諸悪の根源と思って構わないのですわね?」
冷たい目でマーリン様を睨むヒスイ第二王女殿下。
「そうじゃが」
「私達にくださいまし」
あれ? だとしても一人分足りなくない?
「ここは長兄である私が身を引こう」
アルス第一王子殿下がイケメンなのが本当に素晴らしい。
この人が王位を継いだらきっと良い国になるぞ? 弟想いだし。
「いえ、ジュエルはこの間私の秘蔵のデザートを勝手に食べたので要りませんわよね?」
「…はい」
ジュエル第二王子殿下はなんともなんとも…。
と言う事でなんとなく配分は決まったんだけれど、賢者であるマーリン様からチャーハンを奪い取っていったのは王族の特権なのだろうか。
ところで一つだけ疑問があったので聞いてみる事にした。
「ヒスイ第二王女殿下はなぜマーリン様の事をそんなに射殺す様な視線で睨んでいらっしゃるのですか…?」
ヒスイ第二王女殿下は一瞬物凄い剣幕で睨まれたけど、ふっと優しい表情に戻ってリラックスした姿勢を取る。
「良いですわマーガレット卿にはお話しましょう。 マーリン様は私との個別の授業中に私が魔力の枯渇で倒れてしまいそうになりました。 その時に颯爽と私を熱烈な求婚と名高い『お姫様抱っこ』をしたのです。 それなのにも関わらず私に求婚などしていないと言い、私を痛い子だと言ってきたのです。 それから私を見る周りの視線も変わってきま…。 あれ? マーガレット卿?」
この子凄く痛い子だ。




