第百九十六話 宿敵到来
疾いッ!!!
しかも一撃一撃がバカみたいに重い!
ただの統率種なんてレベルじゃない!
正直今まで戦った敵よりも遥かに強い。
魔王を遥かに凌ぐ…。
「我が斧をヒトの身で受け止められるとは! 何年…いや…何千年ぶりだろうか…昂る…!!! 昂る!!! 昂るっっ!!!」
なんだこれっ!? 感情に応じてこいつの身体が更に速度を増し、もっと重くなっていく。
明らかに異常だ。
「良いだろう。 名乗る事を許そうニンゲンの子よ!!!」
「…人に名を聞く前に自分が名乗るのが礼儀って教わらなかったかっッ!」
そう悪態をつきつつギリギリ攻撃を受け流す。
「我にはその様な教育をした者は居なかったのでな。 まぁ良いだろう。 ニンゲンの礼儀に乗っ取り我が先に名乗るとする。 我はエンシェントオーガのオルタナ。 強欲を司る者なり」
「…大罪…」
「然り。 ニンゲンの子よ。 貴様は博識の様だ。 褒めてやろう。 しかし、強欲を司るからと言って我がワガママだと言う事は無いぞ」
いや、アンタバトルジャンキーだろ。
その時点でだいぶ強欲だよ。
「俺は…テイル・フォン・マーガレット英雄爵。 今代の勇者だ」
「相手にとって不足なし…いや、しかし、この程度で勇者を名乗られてもな…」
ピキーン!
チャキ…。
錬帝…そう銘を打たれたこの刀…元は聖剣だった物だ。
中に居たアリサに許可を貰い打ち直した。
皆が寝静まってる間に。
静かに音を立てると言う矛盾を孕んだこの刀。
錬金術の力だけでなく魔法や神の力、精霊の力など様々な力に順応出来るようにしてある。
神を超えた一振り…とでも言うべきか。
これを次元の鏡と言う神具で見ていたらしい某鍛治の神が悔しがっていたらしいが…それはまたのお話で。
「なんだそのひ弱な剣は…爪楊枝か?」
「そう思うならそれでいいよ」
一度抜刀したものの今の距離を鑑みて納刀。
一呼吸…。 目を閉じ、集中する。
いつでもいい、いつでも。
「舐めやがって!」
エンシェントオーガが疾風が如き速さで近付き凶斧を振るう。
しかし、その斧が俺に届きうる事は無かった。
「月影一心流秘技・閃弧」
凶悪な斧は砕け散った。
「なに!? 我の知らぬ剣技…! だが、見えぬ訳では無い…!」
流石の身体能力…。
初見で武器を犠牲にしてでも身体を守ったのは尊敬に値する。
「ふはは! 剣を使えるのが貴様だけでは無いぞ!」
な!? マジックバッグ!?
しかも取り出した剣はかなりの業物だぞ!?
「さぁ、仕切り直しだ殺り合おう、もっとも…殺されるのは貴様だかな? 殺したあとは…。 遠くで見て居るあのニンゲン共の番だァ! グルァァァァァァ!」
プツン…。
俺の中でナニカがキレた音がした。
あぁ、分かったよ、今まで見せた事のない月影一心流最後の奥義を見せてやるよ。
皆もここを目指すんだぞ。
抜刀した刀を片手で構え、左手を刃に添え抜き足の様な技を使い一気にエンシェントオーガの前に詰める。
「月影一心流最終奥義・煌」
この瞬間この世界から強欲と言う脅威は消え去った。
太古より眠っていた大罪と言う存在が今になって復活した原因は不明だが、テイルを怒らせたら怖いということだけは皆が理解したのは言うまでも無い。