第百九十四話 後継者
「テイル様…お願いがあります」
神妙な面持ちで並ぶメイカとナナ、数人のヴァンパイア達。
「どうしたの? 皆揃って」
「私達にテイル様のお使いになる月影一心流を伝授して頂きたいのです」
「…なぜ?」
「私達はいつまでも護られる存在ではいたくありません! お願いします!」
教えるのは錬金術の時に下手ではない事が分かったから大丈夫だろう。
ただ今回は怪我が付き纏う。 覚悟が必要だ。
「君達には覚悟はあるのかい?」
冷酷に、鋭く言い放つ。
「はい、覚悟のある者のみ集めました」
「メイカや、そこのヴァンパイア達は剣を使っているのは見た事がある。 でもナナは弓、短剣、体術がメインだよね? 何故?」
「…エルフは全員弓術と体術、魔法に適性がある…。 私も同じ。 例外なのは私は剣術と短剣術のスキルも持っていること…それだからエルフの中でもかなり異端な方なの…嫁ぎ先が中々見つからなかった」
「あぁ…。 だとしても弓を伸ばしてもいいんじゃない? 無駄に剣を覚えるより…」
「そうだよ。 私のはただの憧れ。 それと万が一の時の影武者になれる為。 だから覚悟はある」
…そういう事か。
「皆の覚悟は分かった。 怪我をしても自己責任だ。 ポーションは俺が持つけど。 痛みに関しては自分の責任だ」
「という事は…!」
「あぁ、全員受けれるよ。 まぁ、錬金術師達の授業と並行して行うし政務もあるから長い時間は取れないからそれは承知してね?」
あれ? 皆の目がキラキラしてる。
おかしいな。
優先して貰えなくて落胆すると思ったんだけど…。
「英雄の剣を学べる…!」
「俺達も強くなれる!」
「私もテイル様に並び立てる…」
盲信者出来てない?
助けて?
マキナを見やると目を逸らされた。
サリィに助けを求めると、そっと退出された。
俺の味方は居なかった…。
「若ぁ! 酒持って来やしたぜェ!」
「お前は仕事しろォ!!!」
「あれ? ノルマ終わったら休んでいいって言ったの若じゃありやせんか?」
「え? 今日の分もう終わったの?」
「え? 当然でさぁ」
なんだこの有能なんだか駄目なんだか分からない人材は。
「俺はまだ仕事あるから適当に屋敷の客間使っていいから飲んでな?」
「分かりやした!」
「あと俺は若じゃねぇ!」
「がはは!」
そうして数日が経ち全員が基本の型を覚えているところだ。
全員スキルレベルが高いのか元のセンスが良いのかは分からないが飲み込みが凄くいい。
このままのペースなら直ぐに打ち合いの実戦形式の練習や技の練習も行うことになるだろう。
「よし、じゃあ皆、打ち合いとか技に向けて基礎体力を付けよう。 走り込み! 開始!!!」
地獄の特訓開始である。
ちなみに俺は見てるだけだ。
だってやらなくても技出せるし…。