第百七十六話 ミノタウロス
操られているとはどういう事なのか。
魔法の類の反応は一切ない。
「ほう、これは呪いの武具のせいじゃな」
マーリン様が肩で息をしながらこちらに寄って来てミノタウロスの壊れた戦斧を見てそう言った。
「実在するんですね。 でも、伝説上の生物を生き返らせてまで操るなんて相当…」
「フゴォ!」
「ブッブッブー(早くテイムして欲しいって! 助けてって!)」
仕方がないからテイムするか…。
「汝、我が配下となれ テイム」
強制的なテイムは基本的に失敗する事が多い。 しかし、今回は本人も望んでる上に呪いの影響も鑑みて強制テイムにする。
通常の詠唱とは少しだけ違う。
「フゴォ(呪いの気配が消えた…。 感謝する)」
「あ、あぁ。 出来れば地球の神とどうにか交渉しないといけないかもしれないな」
「呼びましたか? その子の事であれば正確には地球のミノタウロスではありません」
この人はいつもタイミング見計らって出て来るから怖い。
「異世界…」
「厳密には今回は違っていて、平行世界の地球のミノタウロスです」
「まさか…。 ミノタウロスが実在していたと言う世界戦の地球…」
「もう一方にも表れたエキドナもそうでしょう。 また、神話上の生き物がこちらに来るかもしれません。 どうやって時空を繋げているのかは分かりませんが、呪いの武具を用意する辺りは相当な相手でしょうね。 あと、このミノタウロスは動物を食べて来た様ですね。 きっと美味しいですよ」
それ、もしかしたらまだ見ぬ魔物とかが沢山現れるかもしれないって事だよな…。
平行世界があるとしたら地球だけにある…なんて都合の良い話はないだろうし。
てか、最後に恐ろしい事言わなかったか?
「フゴォ…(食べないでください…。 食べられるくらいなら元の世界に帰して…)」
「まぁ、分かったけどこの子を怖がらせないで?」
「冗談です。 おや、近くに珍しい妖精が居ますね。 シルキーですか…これも平行世界の地球の子みたいですね。 あそこの木の陰からこちらを見ていますよ」
白いドレスに身を纏った女性が確かに居る…。
「ブッブー(あの子は悪い子じゃないよ)」
軽く手招きをしてみる。
こちらへとゆっくり歩いて来る。
はっきりと容姿が見て取れる訳ではないのは何故だろうか。
「あの…。 私はたまたまこちらへと飛ばされて…いっぱい怖いのが居て…助けて下さってありがとうございます」
「あ、喋れるんですね。 もうあらかた周囲の魔物とかは間引いてあるので大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。 私は家事をするのが好きなのですが、どこか置いてくだされば、この世界でも元の世界でも構いません…」
異世界に居るって事は認識出来ているようだ。
家事が必要…か。 それなら王都の俺の屋敷にするか。 いや、妖精や精霊にも居心地良くしていくつもりだからマルディン領にするか。
「他にも対処しなければいけない相手が居るのでそれが終わり次第考えましょうか」
「ありがとうございます」
「妖精とは言えまた女の子ですか…」
後からやってきた、マキナがボソっと言ったのが聞こえた。
俺のせい…じゃないよね? 違うよね?




