第百五十九話 まだまだ続くデート
果物屋との談笑を終えて向かったのは過去に来た事のある定食屋だった。
「いらっしゃい!」
「ん? 今日は店員さん一人かい?」
「あー…。 魔神王が討伐されたって聞いて皆浴びる程飲んじゃって今皆居ないんですよ…」
「あはは。 それは悪い事をしちゃったね」
そっと笑顔で微笑む。
すると、店員さんは顔が青くなっていく。
「ま、まさか…魔王だけでなく魔神王を倒した最強の対魔勇者…。 テイル・フォン・マーガレット伯爵閣下…でございますか…?」
「そんな大層な呼ばれ方は初めてですけど…。 あながち間違いじゃないよ」
店員さんが土下座する。 凄いキレッキレの土下座だ。
「そのような方にご用意出来る程のお店じゃありません…! どうか、どうかお許しを!」
「あはは。 じゃあ俺は前回生姜焼き定食を食べたからこの白身魚の塩焼き定食で」
マキナも店員さんも困惑する。
「いや、俺はここの料理が気に入ってるんだよ。 今まで食べた料理の中で一番って言っても過言じゃなかったんだ。 だからまた来たんだよ。 妻になる子を連れてさ」
「あ、ありがとうございます」
店員さんが泣き出してしまった。 俺が悪いのか!?
「テイルは女を泣かせる才能は凄いですからね。 店員さん? おすすめはありますか?」
いや、それフォローになってないよ?
「当店のイチオシは生姜焼き定食です…」
「ではそれにしますね。 私はマキナ・フォン・クリスエルです。 もうじき家名はマーガレットになります」
また店員さんが泣き出した。
それはそうだろう。 伯爵に公爵令嬢だもの。
「あ、そうだ、良ければ味噌使いませんか?」
「…味噌…ですか?」
あぁ、そうか。 この世界で正式な味噌は無いのか。
「うん、これなんだけど。 前の勇者のレシピにはあったと思うんだ」
「え、えぇ。 ですが、味噌は手に入らないって…」
「あぁ、俺も勇者だから、その製法くらいは知ってるさ」
「では、すぐに調理してきます! こう見えて私が一番料理が上手なんです!」
急に笑顔になり厨房へと走って行った。
店内で走ったらダメでしょう。
「賑やかな方ね」
「そうだね。 前回来た時も茶化されたし」
あれ、マキナの視線が聖剣くらい鋭くなってきた。
地雷でも踏んだか?
「で? 前回はどなたと来たのかしら? マーガレット興?」
「騎士の人だよ。 冒険者として初のランクアップ記念に」
嘘は吐いていない。
「騎士…ねぇ?」
すっごく怪しまれてる。 女の勘ってサーチの魔法より怖いかもしれない。
「あ、生姜焼きの方お先にお持ちしました! 塩焼きの方はもう少々お待ちください!」
いいタイミングで料理が来た。
マキナは初めて見る米に驚いて、説明を求めて来たので説明をして、箸の使い方も教えてあげた。
その後すぐに俺の料理も到着したので、二人で箸を使い定食を食べ始めた。
あれ? なんかマキナの箸の使い方上手すぎるんですけど…?