第百四十五話 母上
落ち着いた二人に魔神王が何を行い、どういう最期だったのか伝える。
「そうか、奴は最後に言葉も無く消えたか」
父上は何か思うところがあるのだろうか…。
「ん? あぁ、魔神王はこの世界を滅ぼそうとなど最初は思っていなかったらしくてな。 何かの切っ掛けがあってそうなってしまったのだろうと考えてしまってな。 だが消えてしまえば真実も闇の中になってしまったわけだが」
「でも魔神王は呪いの力で人そのものを呪いに変えてしまう魔道具を制作していたようです。 明確に害意があったとしか…」
「人を呪いに変えるですか。 この世界の力ではその様な物は存在しません…。 なんなら、様々な世界を知っていますがその様な力は一度も…」
大精霊ですら知らないのか。 一体なんの力だと言うのだろうか…。
「一つ…あるとすれば…」
「なんでしょうか…」
「新たな呪いを生み出せる存在が居る可能性がある。 と言う事です。 そして、それは息を潜めているかもしれない…」
そんな事が出来る者となると神なのだろうか。
全く見当が付かない。
だが、やる事はたった一つだろう。
「なら、勇者として俺がその脅威も打ち払います」
「良い覚悟でございます。 貴方は人間と精霊のハーフですので、元より精霊の加護が眠って居ますね。 新たな脅威と戦う前に覚醒させると良いでしょう」
「母上、ありがとうございます」
その言葉を聞き、ボロボロと泣き始める精霊…いや、ミザリア母様。
「ミザリアよ、我々は良い子を授かった様だ。 テイルよ。 仕方ないとは言え、長く一緒に居られなかった事を大変申し訳なく思う」
「大丈夫ですよ。 兄上も元に戻せたので」
「元に…?」
この際だから皆と同じ様に全てを話しておいた。
「テイル…。 お前が転生者だろうと私達の息子だ。 安心しなさい」
「はい! それと…俺、陛下に認めて貰って…。 父上…俺、マルディン家を抜けて独立した伯爵になりました…」
「伯爵!? その若さでか? 自領を持つと言う事がどれだけ難しいか分からないのか陛下は!」
「まぁまぁ、テイルが頑張ったんですから、まずは褒めてあげることじゃありませんか?」
ミザリア母様がフォローを入れてくれた。
「う、うむ。 そうだな。 テイル、よく頑張った。 しかし…」
「大丈夫です。 補佐として、三賢者が就くようにとの命も下りているので、その辺は心配ないかも知れませんが。 それに、間違いを正してくれる仲間…いや、嫁達も居ますから」
「達…?」
ミザリア母様から怒りのオーラが溢れかえってくる。
知っているぞ…ウンディーネは特性上結婚した男性が浮気すると水に帰っていくと。
浮気じゃない事を伝えなければ。
「あの、陛下に認められて、沢山の嫁を付けてもらう事になりました。 中には同級生や、王女殿下なんかも…それにメイカも居ます」
「私は認めませんけど、テイルが良いと思うのであれば良いでしょう。 認めませんけど」
「はい…。 勿論ですが、誰が一番だとかそんなのは決めるつもりはないです。 形式上順位は出来てしまうのかもしれませんが」
父上が呆れている。 味方してくれよ!