第十三話 クリスエル公爵
屋敷に戻り食卓にて父に報告する。
「ただいま戻りました。 冒険者、魔法師共に登録完了しました」
父上に登録完了の報告を告げる。
「あぁ」
興味がないのか一言しか返してくれない。 母上にも報告をする。
「母上! 魔法師ギルドがCランクスタートでした」
「よかったわね。 私の血を引いてるのだから当たり前なのだけれど」
少しは会話をしてくれるようになった。
明日からは早速依頼を受けてこよう。
そう思いながら夕食を食べる。
するとルルファが慌てて入ってくる
「お食事中失礼します!」
「なんだノックもせずに」
「大変申し訳ありません。 クリスエル様がお見えになりました」
一同は驚きを隠せない。 確かクリスエルって僕の婚約者の家名だよな…。
「失礼する。 クリスエル家当主ティンバート・フォン・クリスエルだ。 マルディン伯爵、久しいな」
「これはこれは...。 どうされたのですか?」
「娘がテイル君に会いたいと言っていてねぇ。 どうも気になってしまうお年頃らしい」
僕の婚約者が来ていると言うことだろう。
すると兄上が口を開く。
「でしたら、テイルはいずれはこの家を出る身です。 公爵令嬢と婚約などあり得ません。 僕が代わりに婚約者となりましょう」
「ほう? それは初耳だな。 残念だが、私はテイル君が良いと思っていてね。 娘もテイル君を極めて気に入っているのだよ」
「な! そんなバカな話があるわけないでしょう! なぜ不遇職なんかを選ぶのです!」
ここで父上が止めに入る。
「やめんかサイド。 公爵閣下の仰っていることに異を唱えるという事はどういうことかわかっておろう?」
そしてクリスエル公爵はこちらに向き今とは違う優しい声色で僕に声を掛けてくれる。
「テイル君大きくなったね。 娘が会いたいと駄々を捏ねるのだよ。 ぜひとも一度会ってやってくれないか? 今日も一応連れてきているのだが...。 君が良ければすぐにでも」
「かしこまりました。 お会い致しします」
僕には何も断る理由がないのでその話を受ける事にする。
「ありがとう。 では、マルディン伯爵よ。 客室を借りるぞ」
父上はもう全てを肯定する機械のようになってしまった。
父上はセバスを呼び準備をさせる。
「セバス、客室の準備を」
食事も終わりかけだったので終わらせ皆で客室へ向かう準備をする。
ここで公爵は驚くべきことを述べる。
「会いたいのはテイル君だけだ。 悪いが君達は用はない」
どうしてそこまで僕に入れこんでいるのかわからなかった。
そして客室に着き。 中に入る。
すると待っていたのはあり得ないくらい美しく、透き通ったような肌で、綺麗な青い瞳、そして腰まではあるかと思われる長い黒髪の少女が座って待っていた。
「き、綺麗...」
ぼそっと口から相手には聞き取れないであろう声が零れ落ちてしまう。
「マキナ・フォン・クリスエルですわ。 お久しぶりでございます、テイル君」
「テイル・フォン・マルディンです。 お久しぶりです。 お会いできて光栄です」
僕は緊張してなにも話せなかった。
するとクリスエル公爵が俺に話しかけてくる。
「テイル君。 君が錬金術を用いて何かしようとしていることは教会の預言者の話から分かっている」
ここで嘘を吐いてはダメだと本能が悟る。
「はい、錬金術の今までなしえなかったことを実験しています」
「ふむ。 それはどの様な内容か言えるかい?」
「はい、錬金術による魔法の模倣をしています。 ご存じの通り錬金術は空気中の魔素を使用します。 ですから、ほぼ無限に魔法に似たモノを放つようなことが出来ます」
「「な! なに!(なんですって!)」」
二人とも声を上げて驚く。 そりゃ当たり前だ。
「ですが欠点もあります。 魔法より数段...下手をすればそれ以上に明確なイメージをする必要があり、魔素を練る段階でかなりの集中力を要してしまいます」
「実戦ではほぼ使えない、と?」
実戦を想定してか詳しく聞いて来ようとする。 答えて大丈夫か分からないけど、クリスエル公爵は安心感があるんだよな。
ということで全て話すことにした。
「すぐに実戦投入出来るのは僕レベルには扱える人間のみかと思います。 今は僕の追放の事もありますので、不確定な段階で世間に公表する事は出来ないと考えています。 それと、扱える人間は限られて来ると思います。 例えば、錬金術師や、鍛冶師、薬師などが良い例でしょう」
「なんという事だ...。 君の考えは理解した。 色々調べたいことが出来たので今日はこの辺りで御暇させてもらおう。 テイル君にはこのままであれば婿入りしてもらうことになると思うか...」
こんな僕にも良くしてくれる...とてもいい人だ、信頼に足る人かもしれない。
「なっ! ...ではお送りさせていただきます。 婿入りですか...。 まだ全然考えていなかったです」
僕は結婚してしまうのか...。 と考えてしまう。
「今はゆっくり考えるといい」
「テイル様、本日は無理を言ってお会いして頂きありがとうございました」
クリスエル公爵とマキナ嬢はメーティル先生と似たような雰囲気でとても心の奥が安らいだのを確かに感じ取る事が出来た。