第百三十二話 不穏な謁見
山田が神様じゃなければ一緒にどこか遠くへ行くなんてのもありだったな。
(なら、先輩? 一緒にどこかに行きますか?)
この脳内に響く声は明らかに先ほど喋ったナールム・ル・フォンドニア嬢のものだ。
しかしこれはテレパシーの魔法だ。 普通の人が使える訳が…。
(何言ってるんですか? 私ですよ? 山田です! 地球での業務がほぼ終わったので死んだ瞬間のナールムちゃんの魂と混合して蘇生したので今はナールムですけど!)
終わった。 この世の終わりだ。
地球の最高神がこの世界で小国の王族に受肉した…。 終わった。
(酷いじゃないですか! 私心読めるんですよ!?)
(地球の時心読まなかっただろうが!)
(あれは下界に降りると神の力が使えなくなると言う制約があって…)
(じゃあ禁止。 先輩命令ね)
「どうした、テイルよ。 不服かの?」
「いえ、謹んでお受けさせていただきます。 しかし、この様な若輩者で劣等職がこれだけの妻を…となると他の貴族はどう思われるのでしょうか…」
「何を言っておる。 周りを見てみなさい」
「テイル卿がこちらを見たぞ! 俺達も幸せになれる!!!」
えぇ? 俺一角兎か何かの扱い?
「ところでテイルよ、一角兎はどこに居る?」
「あぁ、それなら連れて来いとは言われていましたが謁見に居ていいのかと思い控室に居ます。 多分侍女の方が見てくれているはずです」
「ならば、おい、誰か、一角兎を連れてこい。 乱暴に連れてきたら打ち首だ」
騎士の人らが武器を置いて行ったけどそんなに威圧感あったかな?
ドーラ様やマーリン様、魔王に威圧され過ぎて感覚が麻痺してきたかもしれない。
「テイルよ。 一角兎と話せるのはテイルだけなのだな?」
「話すと言う点で見ればそうですが、意思の疎通なら皆出来ますよ」
「そうか!」
「うふふ、あなたのそんな顔、はじめて見ましたわ。 失礼、名乗るのが遅れましたわ。 私は王妃のリファエル・エル・アストレアですわ。 子爵殿? お見知りおきを」
「えぇ、父上がまるで童子に戻った様だ。 僕もお初にお目に掛かる。 第二王子のジュエル・エル・アストレアだ。 兄上は他国の学園に一時留学しているので申し訳ないが僕が代理を勤めさせてもらう。 姉上達は婚約者の領地にて色々学んでいる最中で間に合わなかった様で…。 申し訳ない」
「王子殿下が謝罪なさる事ではございませんよ! 気にしていませんから大丈夫です…。 それとジュエル王子殿下はアル…一角兎はお好きですか?」
「えぇ、実物は見たことないですが…」
「なら、もうすぐ来ると思うので良ければ撫でてあげてください。 喜ぶと思います」
「やった! じゃなかった。 心得た」
「私も撫でさせてもらってよろしくて?」
「ぜひ!」
そうして会話をしていると扉が開き、元気にアルが入ってきた。
若干威風堂々とした立ち振る舞いをしているが元気旺盛だ。
「ブッブー(人間の王城広いですー! 主―!)」
「うん、こっちへおいで」
そうするとアルは元気よくこちらへと走ってくる。
可愛らしい走りに普段険しい顔をしている貴族一同の顔も緩んでいて和やかな雰囲気となった。
「ブッブ?」
少し怪訝な顔をしたアルが王妃と王子に近づくと。 こちらを振り返り、一つ大きく鳴いた。
「ブッブー(この子達は呪われているよ)」
「陛下、王妃様、王子殿下! アルが言ったのですが王妃様と王子殿下が呪われていると! 確認を行ってもよろしいですか?」
謁見の場は騒然とした。