第百二十九話 帰還
彼の者達は魔王を討ち倒したか。
こちらの存在にも気付いているらしいがなんの支障もありはしない。
これからが本番なのだから。
龍神であるドーラを屠り、その血と魂を取り込む事で魔神王は更に格が上がる。
ついでに勇者であるテイルの魂も取り込んでやろう。
そうすれば邪魔者は居なくなるだろうからな。
配下だった者達は殆ど失ったがまだ手駒はある。
「おい、貴様に名をくれてやる。 貴様はジャービルの元ではリエルと名乗っているのだな? ならばリエラの名をやろう。 そして、以前の命令通り期を見て賢者を屠れ。 賢者の居ない勇者など全く怖くはない」
「分かりました魔神王様」
すっとそこに居たリエルと呼ばれた者の姿が消える。
その者はどこかで見たことがあるような姿をしているのは確かめようがない。
「賢者よ、敵は近くに居るものだぞ? ふははは」
へっくしょーい!
とても威勢の良いくしゃみが隣の馬車から聞こえて来る。
多分この声はジャービル様だろう。
お弟子さんはする事があるとわかれてしまったそうだから、今は彼女はボッチだ。
と言っても馬車には他にも乗っているので完全なボッチという訳ではないんだけどね。
王都が見えて来た。
長い馬車の旅だったが、特段面白い事は起こらなかった。
いや、まぁそんなにトラブルがしょっちゅう起きても困るのは俺なんだが。
いつも通り門番が検問をしており、王都に入るには身分証か身分を証明してくれる保証人が必要になる。
俺は冒険者ギルドのカードがあるから良いが兄上は大丈夫なのだろうか。
「あ、勇者様御一行ですね! すぐにお通ししますのでお待ちください!」
なんか、杞憂だった。
俺達は兄上の処遇を聞くためにまずは王城へと向かう事にした。
「なんか王城に来るのも久々に感じるわい」
「帝都で王城入ったじゃないですか…」
「あれは別じゃろ…」
なんて話をしていたら、給仕の人が風呂を勧めてくれた。
きっと俺達は臭かったんだろうな。
アルは初めてのお風呂なので興奮気味である。
「ブッブー!(兎生初のお風呂ですー!)」
楽しそうで何よりだ。
陛下に一角兎をテイムした事を伝えてもらうと是非見たいとの声が掛かったのでそのまま連れて来る事にした。
この王城の風呂って軽く三十人は入れそうなサイズしてるけど、幾らくらいかかってるんだろうか。
自分の領地に行ったら温泉を掘ったりもしたいよね。 王国に温泉地ってほとんどないし。
で、若干喋り方が変なのには理由があるんだけど…。
なんかお風呂に陛下が居るんだよね。
錯覚かな? そして俺は誰に話しかけているんだろうか。
「へ、陛下、お使いになられてるのでしたら我々は時間を変えますが…」
「はっはっは! 良い良い。 テイルは未来の我が子だから遠慮する事はない! 公の場では無いし、お義父さんと呼んでもいいんだぞ?」
「え、えぇ…。 陛下…流石にそれはお戯れが過ぎます…」
「なんじゃ。 本気だったのに」
口を尖らせる陛下。 この仕草ってサリィ王女殿下にもあるんだよな。
「さて、今はたまたま人払いが出来とるから聞くが。 魔王は今回弱かったじゃろ?」
「えぇ、そんな感じはします」
「魔王の根本である聖剣でしか討てないと言う事が無い時点でおかしいんじゃ。 魔神王が新たな魔王を用意している恐れがある」
驚愕の話が出てきてしまった。