第十二話 魔法師ギルド
魔法師ギルドに向かう途中に果物屋さんに声を掛けられる。
「お兄ちゃん! 可愛い彼女連れて羨ましいね! リンゴ一個買っていかないかい?」
感じの良い人だ。 僕も急ぎじゃないから少し立ち寄っていこう。
「お、いいね! 買わせて貰うよ。 でもこの子は僕の護衛なんだ。 彼女じゃなくてごめんね」
「そうかいそうかい。 ほい、銅貨一枚だよ!」
「ありがとう、また来るよ」
そんな会話をしながら僕は魔法師ギルドへと歩みを進める。
冒険者ギルドから大体二十分もかからないだろう位置にあるそうで、道も今のところ分かりやすい。
ふと疑問に思ったことをメイカに聞いてみる。
「僕の婚約者ってどんな人か知ってる? 会ったことがないと思うんだけれど」
「いえ、十歳の時に行われた王家主催のお披露目会にてお会いし、しっかりとご挨拶をなさっているはずですよ。 マキナ様はとてもご聡明でいらして、将来は絶世の美女になるだろうと言われているくらいお美しいお方ですよ」
「そうなのか。 そんな人が僕の婚約者だったなんて想像出来ないな...。 どうして父上は一切教えてくれなかったんだろう?」
「それは政略の為かと思います。 私は騎士ですので詳しいことまではわかりませんが...」
そっか...。 と返す。
あれ? 騎士と言ってもメイカも貴族出身だよね? しかもまだ家名を名乗っているという事は別に家を出た訳でもないのだろうし...。
色々考え事をしていると魔法師ギルドが見えてきた。
冒険者ギルドよりも見た目がボロく、街の中心近くにあるとは思えない外観をしている。
「大丈夫かな、これ」
そんな独り言が漏れてしまうくらいだ。
そして扉を開けて中に入る。
一斉に視線がこちらに向く。
見定めるような視線がかなり集中する。
極めて不愉快である。
そしてその視線を我慢し受付に向かう。
「どの様なご用件でしょうか? ここはお子様の来る様な場所ではないのですが」
「ギルド登録に来ました。 ご対応お願いします」
「子供の登録は認められておりません。 魔法師はエリートの集まりなのです。 どうぞお家へお帰りください」
するとさっきまで黙っていたメイカが声を上げる。
「家へ帰れとは何事か! このお方は伯爵家のご子息のテイル・フォン・マルディン様だ。 先ほどの言葉を撤回しろ」
「お貴族様でしたか。 ですが言葉を覆すことはありませんよ。 ここは国の権力からは外れている魔法師ギルドなのですから」
僕は怒る事なく冷静に対応する。
「でしたら、魔力の測定だけでもしていただけませんか? 初級までの魔法は習得しているのでそれなりに魔力はあると思います」
「はぁ、それでしたら。 こちらの水晶にお触れください。 それが終わったらさっさとお帰り願います」
辺りからクスクスと笑い声が聞こえる。 だが僕はタダで終わらせるつもりはない。
「!? 魔力量一万五千!? た、大変失礼致しました! すぐにご登録の手続きをさせていただきます!」
やっぱりな。 こうなることは僕は容易に予想出来た。 辺りもざわつきだす。
「いえ、魔力の測定はしたので先ほど仰った様にこのまま帰らせて貰いますよ?」
「な!? 私はその様な事は言っておりません! 登録をして貰わないと困ります!」
すると奥から高齢の方が声を掛けてくる。
「受付嬢の躾はちゃんとしておかんといけんな。 少年、うちの職員が大変申し訳ない事をした」
「テイルです。 以後お見知りおきを」
「良い名じゃ。 ワシは魔法師ギルドのギルドマスターのガイルじゃ。 良ければワシの顔に免じて登録だけでもしていってはくれんだろうか? ワシの特権でCランクで登録させてもらいたい」
「ありがとうございます。 よろしくお願いします」
「それと、この受付嬢はちゃんと再教育をしておこう」
ん、待てよ? 魔法師ギルドのギルマスであるガイルと言えば『誰でも分かる魔法入門』や『魔法の理論構築 基礎』などの著者じゃないか? ただ、高ランクの魔法師で謎多き人だとか...。
僕...結構ファンなんだよな。 著書もかなり分かりやすくて何度も読み返してしまっている。
そんなことを思っていると別の受付嬢が登録の対応をしてくれる。
「では、ご登録をしますのでこちらの用紙にご記入ください。 テイル様はCランクスタートとさせていただきます」
「分かりました。 ランクの上げ方などは冒険者ギルドと同じですか?」
「えぇ、同じですよ。 ですので沢山依頼を受けてランクを上げていってくださいね」
「わかりました。 ありがとうございます。 書けましたので確認お願いします」
「確認致しました。 今後のご活躍を心より期待しております」
そうして僕は魔法師ギルドにも登録を完了させ、帰路につくのであった。
その後は冒険者ギルドも魔法師ギルドもかなりの騒ぎになり、各ギルドの受付嬢達はかなり苦労をしたのだとか。
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