第百二十七話 その後の帝都
帝都は穏やかな表情を取り戻していた。
じわじわと人が起き上がってきている。 避難した人も自己判断で中へと戻って居る様だ。
「ありゃ、これじゃ外に呼びに行く必要は無くなっちゃったかな?」
「ごめんね、テイル君! 遅れちゃって…。 皆が中へ戻るって言っちゃって必死に止めてたの…」
「仕方ないよ! 魔王は倒したよ、兄上も助けた。 こっちは余裕な感じだったね。 やはり本番は魔神王なんだろうね」
「そうじゃろうな、魔神王は魔王に力を与えていたはずじゃし。 外的な要因が無ければクロキの魂がこちらに再度戻ってくる事も無かったじゃろうしな」
うぅむ…。 と悩んでいる俺達に一人の老人が歩いて来る。
あれは俺達の助けた宰相だろう。
「先程はお助け頂き誠にありがとうございます。 魔族如きに後れを取ってしまった事はなんとも不服ですが、勇者様にお助け頂けた事を心より感謝致します。 ところで、王を見ませんでしたでしょうか…」
「いえ、その様な恰好をされている方は見かけてません…」
「テイルよ。 待つのじゃ、まさかとは思うが魔神王の贄か、魔神王に幽閉されていると言う事はないか?」
その線は考えていなかったが俺の父上を幽閉し、その姿に成り代わる能力がある事を考えるとそれも可能性は捨てきれなくなってくるだろう。
「だとしたら、勇者としても帝国の国王陛下お手伝いはさせて頂けると思いますが、良ければ冒険者ギルドも使ってください。 彼らは優秀ですから」
「そうさせてもらいましょう」
魔神王が他人に成り代われる能力がある事は伝えておいた方が良いのだろうか。
いや、伝えるべきだろう。
「皆さん、魔神王について一つお話があります。 奴は他人の姿に成り代わる事が出来ます」
「なんじゃと!?」
「奴に関しては神気も邪気も魔力も扱えます。 硬度な隠蔽も出来るはずなので早々気付く事は出来ないかもしれません」
愕然とし出す皆。
「俺の父は魔神王に捉えられ、幼い頃から俺の父親に魔神王が成り代わっていたそうです。 多分ですが、まだ領から動いていないかもしれませんし、それ自体が罠かもしれません。 そちらはドーラ様が対応してくれるそうです。 あくまで牽制…でしょうけど」
「ドーラ…まさか龍王であり龍神でもあるあのドーラ様ですか!?」
「ラファイアル嬢、そのまさかですよ?」
そう言って俺は優しく微笑んだ。 少しでも魔神王に対する恐怖を減らす為に。
「テイルよ、帝都自体の被害は少なそうじゃ。 早めに王国へ帰るとせんか?」
それが賢明だろうな。
ただラファイアル嬢が異常にこっちを見てきているのが気になるが。
「分かりましたわ、こちらで馬車を手配させていただきます。 もう大方動ける人も居らっしゃるでしょうから…」
「ラファイアル嬢、ありがとうございます!」
こちらへ、と案内してくれるラファイアル嬢。
歩く背中には何か悲しそうな感情が籠っていた。
歩く事数分。 馬車の販売所に着いた。
「店主、勇者様に馬車を二台お願いいたしますわ。 代金はラファイアル家へと請求して貰えますか?」
「あぁ、だが、肝心の馬が瘴気にあてられて体調が優れねぇみたいなんだ」
「ブッブー!」
アルが光りを放った。 これは魔法の類だろう。
すると途端に厩舎からは元気な馬の嘶きが聞こえ始めて来たのだった。
「なんじゃこりゃー!!!」
こっちも元気に叫んでいた。