第百二十四話 クロキの涙
「ほう、聖剣に意思があるのか。 まるでアイヌの伝承にある人喰い刀だな」
「意思があろうがなかろうが、これは聖剣だ。 妖刀じゃない」
面白いといわんばかりに拍手を鳴らす魔王。
「真なるインテリジェンスソードと言う事か。 素晴らしい。 だが、強化された俺に通じないだろう? そして、お前も俺もまだ限界突破をしていない」
こいつは限界突破について知っているのか。 錬金術だと疑似的な限界突破が出来る事は気付いていた。
ただ、伝承でしか見たことのないものだったからそれを披露した事は無かった。
「限界突破は疑似的な物しかできないはずだ」
「ほぅ、俺は知っているぞ。 錬金術師なら簡単に出来る事を」
様々な所から驚きの声が上がる。
「魔素と魔力を同時に練り、血液や筋肉に染み渡らせる。 そして、限界突破と唱える。 それだけでいい。 太古の人族は錬金術師以外でも魔素が練れたからな」
「なぜ俺に教えた?」
くははは! と大笑いをしている魔王。
「俺だけが限界突破をしてしまえば貴様らなんぞ塵も残らないからな。 そして、そのありとあらゆる神の加護…。 面白いじゃないか? さぁやって見せろテイル!」
もう、こいつに対抗する為にはそれを行うしかないのは目に見えていた。
先程から溢れている魔力や魔素は常人のソレではなく、ここに居る全員の魔力を足しても足りない程だ。
「良いじゃないか。 流石は天才だな。 いや、神の加護や龍の加護の力か」
「おい、クロキよ、ワシらをも貴様は殺そうと言うのか?」
「マーリンよ。 俺の望みはただ一つ。 この世界の崩壊だ。 その為ならかつての戦友だろうが手に掛けてやろう! 限界突破!」
縮地に近いモーションでマーリン様に駆け寄り、首に一閃を入れようとする魔王。
しかし、その剣は二つの剣によって止められる。
「戦姫か。 強いな。 しかし、強いが故に無駄だ」
魔素のオーラを放出し、ラファイアル嬢とメイカを弾き飛ばす。
「女子供には優しかったクロキはどこへ行った」
「くはは! これは戦だ! いや、俺によるこの世界の破壊だ! さぁ、マーリン。 首を寄越せぇ!」
「させない! 限界突破」
縮地をし、魔王の剣を弾き飛ばす。
空中へと舞い上がった剣は魔素を放ちながらゆっくりと落ちて来る。
「ふむ、流石に覚えが良いな。 お前以外を殺して一対一にしようと思ったが…。 まぁ良い。 あの妙な剣術で俺を屠ってみろ」
「そうか。 なら貴方と戦う前に一つ聞くよ。 魔王、いや勇者クロキはどうしてそんなに泣いているんだい?」
「...俺が泣いている?」
そう、魔王はマーリン様を殺そうとした瞬間からずっと泣いていた。
俺はそこに疑問を持った。 俺だけではなく、多分皆もそうだろう。
「くはは、そうか、余はこの者に呑まれているのだな?」
「そういう事か、お前はクロキの心の闇に乗じてクロキを乗っ取ったんだな、本当の魔王」
「本当の魔王!?」
マーリン様が声を上げていた。
だが、そんな事には目もくれず、ずっと魔王はこちらを向く。
「そうだ、余を倒せる者が闇に呑まれたのだ。 余の手中に収めてしまえば怖くは無い。 この勇者を取り込んでしまえば人類など恐るるに足らないと思って居るのだよ」
「そうか、それを聞けて安心したよ。 これも通用するかもしれないね。 セイズ」
「な! それは! この世界の魔法では!」
「あぁ、クロキの居た世界であったとされる降霊術だよ。 俺はその知識も貰った」
魔王の魔素がどんどんと減っていく。
そして代わりに俺達の眼前には光の球体が浮かんでいた。
「貴方が本当のクロキさん…ですね?」
俺がそう尋ねると光の玉は神々しく輝いた。