第百二十三話 魔王クロキ
俺は即座に錬金術と魔法で何重にも身体強化を掛けて応戦する。
闇を纏った暗き剣と光を放つ崇高な聖剣による激しい打ち合いが始まる。
それは一秒も経たない内に何合も何合も交わり合い、互いが互いの力を打ち壊していく。
「流石は力に制限の無い勇者だな」
「お前の乗っ取ってるその兄上に言われたら嬉しかったんだろうけどな」
お互いに見極める様に剣速が上がっていく。
激しくなっていく打ち合いにジリジリと火花が飛び散るようになってくる。
魔王は笑っていて、戦いを楽しみ始めているようだ。
「速い…」
「お主ら! 何をボーっと突っ立っておる! 早くテイルの援護をせんか!」
無詠唱でアイスニードルや、ファイアランスなどを打ち込んでくる賢者達。
俺に当たらないようにかなり繊細なコントロールをしている様だ。
その魔法の後ろに姿を隠し、当たった瞬間に剣戟を繰り出すラファイアル嬢とメイカ。
「あはは。 君達は流石は蛮族だ。 自分らの都合で召喚しておいて! 倒す時も数にものを言わせる! 流石だなぁ!」
「魔王。 いや、クロキさん。 俺もあんたの気持ちは分かるよ。 でもさ、人を助けたかったって気持ちは本物だったんじゃないのか? 恨むならこの世界の人々じゃないだろ。 魔王や魔神王を恨むべきじゃないのか!」
「くくく。 お前も転生者だものな。 だが、一度闇に吞まれたらそんな細事はどうでもいいんだよ」
そうか、心が完全に闇に呑まれてしまったのだろう。
なら、もうやるしかないんだな。
「聖なる光鎖よ、彼の者を縛り、捕縛せよ。 ライトニングチェイン」
マーリン様がライトニングチェインで魔王を縛り付けてくれた。
そしてそれを逃すまいとメイカが魔王の身体を羽交い絞めにする。
「テイル様! 今です!!!」
俺は即座に縮地で詰め寄り、魔王の…兄上の身体に触れ核と心臓の分離を行う。
「やはりそう来たか。 言っただろう? この身体は無くても良いと」
抵抗が無かったためにすぐに切り離す事が出来た。
そして切り離された魔王の核は玉座へと飛んでいく。
「なにが起きているんじゃ!?」
「わかりません、兄上と魔王の分離は上手くいったはずですが」
核はどろどろと溶け始める。 そして、沸騰した様に泡が立ち始めた。
「ガハッ!」
兄上が吐血をしながら目を覚ます。
「テイル…。 僕は…。 僕が弱かったから…」
「兄上! 全ては魔王が悪いのです。 兄上は何も悪くありません!」
そう声を掛けると兄上は優しい笑顔でこちらを見て、ゆっくりと目を閉じていった。
「サリィ! 兄上を頼んだ!」
「任せてください。 私が救います」
「ふぅむ。 家族愛とはすばらしいな。 小鳥遊君」
玉座に視線を戻すとそこには禍々しい魔素を放った一人の青年の姿があった。
「俺こそが勇者だった者。 そして、今は魔王である黒木俊吾だ」
「そうか。 俺は小鳥遊祐樹、そして今はテイル・フォン・マーガレットだ。 まだお前は戦うつもりか?」
「何を言っている? お前だけじゃない。 このアレスディアと言う世界の人間全てを殺し尽くすさ」
俺は聖剣を掲げ宣言をした。
「ならば勇者である俺が! お前を討ち倒す! 力を貸せ聖剣に眠るアリサ!!!」
聖剣が今までに無い程の光を放ち、魔素を掻き消した。