第百二十二話 接魔
「こちらが謁見の間になりますわ」
ラファイアル嬢に先導してもらい、謁見の間へと到着した。
道中に魔族や悪魔憑きの姿や気配は無く、すんなりと来る事が出来た。
だが不可解な事があるとすれば、ここまでは魔素が濃い状態だったのに、謁見の間からは魔素を感じない事だろうか。
「ふむ。 これは何かを隠蔽しておるな」
「えぇ、俺もそう思います」
サーチを扉に集中し、罠が無いか確認する。
しかし、何も罠の類は無かったのでそのまま開けようとするがマーリン様に止められる。
「テイル。 主戦力のお主に何かあってはいかん。 ここはワシに任せよ」
「…分かりました」
俺の焦る気持ちがどんどん増している事もマーリン様には筒抜けだろう。
扉がゆっくりと開く。
一番最初に視界に入ってきたのは玉座に堂々と座っている魔王の姿。 外見は兄上の面影が残っている。
そして次に目に入ったのは無数の死体だ。
「ほぅ。 もう辿り着いたか」
「都合でも悪かったかな。 でも、俺達はお前を討伐しに来たんだ」
「フハハハ! 貴様からは殺意もなにも感じない。 嘘がバレバレだ」
「のぅ、貴様の魔力の質、魔素の練り方。 見覚えがあるのじゃがな。 魔王…いや、貴様は魔王に成り代わった勇者クロキじゃろう」
マーリン様が鋭い口調で魔王にまくしたてた。
「良く気付いたなマーリン様。 いや、賢者マーリン。 余は…俺はクロキだ」
何故勇者が魔王になったのだろうか。
「ほぅ、クロキよ。 何故に魔王なぞに成り代わったのじゃ」
「ふむ。 妥当な質問か。 俺はこの世界に様々な制限の元召喚された。 だが、地球へと帰った俺の身体はもう朽ち果てていた。 俺は嘆いたよ…。 身勝手に召喚された挙句、世界を救っても帰ったら待っていたのは孤独な死だ。 そして、恨んだ。 だからこの世界に干渉し、倒した魔王の核を取り込み、俺が魔王に成り代わった。 正直に言えば復活に器も必要は無かったさ」
「なら、何故俺の兄上を乗っ取ったんだ!」
魔王は腹を抱えて笑い出す。
「今代の勇者の小鳥遊…いや、今はテイルと呼んだらいいか。 面白い事を言ってくれる! 貴様が神の慈悲でこの世界に転生し、無条件で知識をひけらかす事を許されていたからだ。 よって貴様への復讐でもある。 魔神王から魂を監視する権限を貰っているから貴様の全てが分かるぞ。 今、貴様が俺に何をしようとしているかもな」
ただの言い掛かりだ。
魔王は言いたい事を言うとおもむろに立ち上がり、こちらへと歩いて来る。
皆、臨戦態勢に移っている。
「なぁに、まだ手を出さんさ。 貴様らはこの死体の山がなんなのか気にならないか?」
「それは人工魔族やろ? アンタの力を強化する為の生贄になっていった」
「賢者ジャービルよ、ご名答だ。 この者達の核を喰らう事でその力も、知識も、魂すらも俺が取り込んでやったさ。 良い趣味だろう? そしてこの者達の死体を取っておいたのは簡単だ」
魔素が練られていく。 これは錬金術の反応だ。
「そう、この亡骸達は我が剣にする為の材料だ。 テイルが聖剣で行った様にな」
物凄い速さで錬成されていく。
だが、俺の錬成とは違うかなり歪で、そして何より異質な錬成だ。
聖剣に使用したのは遺骨のダイヤモンドだが、これは死体をそのまま剣へと錬成するものだろう。
それは徐々に形を剣へと変えていき、どす黒い高濃度の魔素を放っていた。
「なんじゃあの剣から放たれている瘴気は…。 これも魔素の類なのか!」
「さぁ殺り合おうではないか、勇者一行。 これにて開戦だ!」
有り得ない様な疾さで魔王はこちらへと飛び込んできた。