第百十四話 新たな四天王
魅了を打ち払っている一瞬の隙に物凄い速さで眼前に迫ってくるアルキリア。
「速いな…」
迫り来る猛攻を受け流しながらぼそりと呟く。
「くくく、私のこの速さに順応出来るとは、流石ですね」
「ファルコより遅いじゃないか」
素直に感想を述べる。
しかし、それが癪に障ったのか、攻撃のパターンが徐々に変わってくる。
速さならファルコが、重さならミルスが上だな。 魅了さえ掛からなければこちらが有利だろう。
「ちっ、よくもまぁ耐える勇者様ですね。 大人しく魔王様の所へ来なさい」
明らかに必死になってくるアルキリア。
先ほどから攻撃の合間に魅了と幻覚を放ってくるが、そのことごとくを打ち払っている。
「あぁ、そうしたいけど他の人間に危害を加える魔族をほったらかしにして兄上の所には行けないさ!」
「ふふふ、そうでしたね! 貴方のお兄様が魔王様の器でしたねぇ? これは見物ですねぇ」
「笑っている余裕があるのか?」
ここで俺のサーチに反応があった。 これはラファイアル嬢とメイカだな。
住民や衛兵達の避難が終わったのだろうか。
「加勢させて頂きますわ!」
ニヤリと笑うアルキリア。
これは不味い予感がする。 狂化したこいつの魅了は男女問わず有効だろう。
打ち払う事が出来るのは聖剣と伝説級武器くらいのはずだ。
咄嗟にメイカと俺が交代する。
「ラファイアル様! テイル様! 身体が思うように動かないです!」
入れ替わったメイカが声を上げた。
「そうですわね、これは不味いですわ」
ラファイアル嬢も同じらしい。 これは魔素の影響だろうか…。
俺は即座にピュリフィケーションの詠唱に入る。
待ってましたと言わんばかりにアルキリアが笑いだす。
「くはは! 待っていましたよ? 詠唱の隙を!」
魅了が発動される。 だが、俺にではなくラファイアル嬢とメイカにだ。
これは不味ったかもしれない。
「テイル様…! 逃げてください!」
メイカがこちらに転身し、攻撃を放ってくる。
即座に受け流し、バックステップで体制を整えるも、ラファイアル嬢に後ろに回り込まれている。
ここで披露するのは極めて不服だがそんな事は言ってられないので即座にピュリフィケーションを無詠唱で放つ。
「なっ! 有り得ない! 聖属性の魔法を無詠唱だと!?」
錬金術師だけではない。 生産職全般に言える事だがその魔法をしっかりと理解していれば無詠唱での行使は可能だ。
ただし、自分の使える魔法に限っての話にはなるのだが。
「さて、俺達が有利になってしまった様だけど。 まだやるか?」
「聖剣を媒介にしたのか! ならばこの威力のピュリフィケーションも頷ける!」
ここで巨大な反応を感じ取り、即座に大きく後退する。
「苦戦してるじゃねぇか? オイオイ…これは酷いなぁ? 手助けしてやろうか?」
「貴様はレイオス! 良いから加勢しなさい! 流石に魔王軍四天王の上位二人が揃えば彼らも太刀打ち出来ないでしょう」
「くひひ! 良いぜ! 勇者以外は殺して良いんだろう?」
「好きにしなさい」
こいつも魔王軍の四天王か。 手強い相手かもしれないな。
俺は帝都の入口付近から複数の反応が近付いて来るのを確認した。 賢者の方がもう来てくれたのだろう。
ここからが本番だ。 これならさっさとこいつらを倒して魔王の所まで行けそうだ。