第百二話 意趣返し
呼ばれた部屋の前で待っていると呼ばれたので扉へ向かう。
執事が開けてくれたので実質自動ドアだ。
「よく来てくれたね。 そこに掛けたまえ」
「はっ!」
「堅苦しい敬語は要らん。 宰相もマーリン殿も居ないのだから、ゆっくり話そう」
「はい。それで、何の用なんでしょうか?」
俺は素直に話してみた。
ド直球に。
「うむ、そなたを帝国が狙うのも時間の問題じゃと思ってこの国の貴族にした。 それは済まぬと思っておる。 だが一つ重要な事が分かった…覚悟を問いたい。 親を殺せるか?」
どういう事だろうか? さっぱり分からない。
「どういう事でしょうか? 意味が…」
「テイルの父である、アレク・フォン・マルディンは生きておる。 だが、魔神王が数十年前からなり替わっておる。 姿を変える為にはその存在を生かす必要があるようだ。 ある意味アレク氏は無事と言える。 しかし、テイルを育てて来たのは魔神王となる。 育ての親にあたる存在だが討てるか?」
「もちろん討てます。 聖剣に誓って」
どうりで、父親の様子も昔とは様変わりしたはずだ。
「魔神王がアレク氏になり替わったのはテイルがまだ幼い頃だ。 なにか気にかかる事はあるか?」
「はい、父上はとても優しく、私や兄上と遊んでくれました。 ですが突然暴言を吐くようになり、選定の儀からはもはや完全に別人でした」
うぅむ…と唸る陛下。
「余程あの家系で錬金術師はイレギュラーだったのじゃろうな…。 そして極めつけはテイルが前世の記憶を取り戻した事。 そこから様子見が始まったか」
確かに俺もその様に感じた節はある。
わざと声を掛けてみたりしてもきたしね。
「もしや魔神王を討てるのはテイルだけなのかもしれんな。 だが魔王も力を付けているという…どちらを優先するか」
「もちろん、魔王です」
ほう、とこちらを睨む。
「それは私情ではなくか?」
「私情ではありません。 魔王は魔石を取り込み強くなります。 それに比べ、魔神は強くなることはありません。 ならば脅威度の高さは魔王にあると思います」
納得した。 と言った顔だろうか?
この国王陛下、考えてる事すぐ顔に出る癖を直した方が良いと思う。
「わかった。 魔王討伐を優先してくれ。 錬金術師の育成は順調か?」
「カリキュラムに沿って反復、映像の魔道具で見せてイメージをより鮮明化させているのでかなり質の高い錬成が可能になりましたね。 魔法の模倣まで出来ますよ。 それに各生産職と同じ事も出来るように仕込んでます」
「それは何故じゃ?」
「もし、錬金術師だからって不遇な扱いをされたら他国に行って名を上げれる様にです。 教国なんか良いんじゃないですか?」
陛下は完全に頭を抱えた。
「それ以上は国家反逆罪になりかねんからやめてくれ…」
「いえ、生きる知恵です。 代々技術を継げばいつかまたその時代に勇者が生まれるかもしれないじゃないですか?」
それもそうか…と完全に陛下は諦めてしまった。
「もうテイル。 君の事は半分色々と諦める事にする。 代わりに優秀な子を沢山残して貰わないとね? サリィにマキナ、ナナちゃんは君の嫁確定だ」
え? そうなの? 婚約じゃなくて?
「ふふふ、表向きには婚約じゃがもう確定だよ。 他にもメイカ・フォン・ディッセルや、マリア、エメリーなんかも嫁にあてがう事を水面下で動いておる。 おっと? まだ増えるかもしれんなぁ?」
ニヤニヤする陛下。
ちょっとした悪戯のつもりが盛大な意趣返しを頂いてしまった。