第九十九話 不遇職改革の第一歩
「これは最高の昔の鍛冶師が作ったとされている一品でな…。 そうそう超えられる様な物は作れはせんのだよ」
これが? ただのアダマンタイト…しかも極めて純度の低い。
「無礼を承知で申し上げますとこちらかなり質の悪いアダマンタイトです。 合金でもありません。 叩きの回数も少なく見えます。 当時の技術としては素晴らしいのかもしれませんが、私の技術…いえ、私の使わせてもらった鍛冶屋の店主でもこれ以上の物を作れるかと」
「なんと、では幾つ用意出来るのだ!」
「テイル、答えなさい」
「はっ!聖剣の素材の余りで伝説級武器の魔剣を何振りか打ち、商業ギルドへとレシピごと持ち込むので余りとしては計算上重鎧であれば二十…でしょうか」
別に軽鎧でもこの重鎧より防御力高いけど慣れってのもあるだろうし形状は一緒の方がいいだろう。
「ほう、先は素材の問題と言ったな。 素材があれば伝説級武器ではなくとも上質な武器や防具を揃えることは可能か?」
「テイル、答えなさい」
これはあれだな? 俺に作れって話だな?
「はっ! 鍛冶師達が製法を熟知し、弟子たちにもその技術を継承させ始めた時、量産は可能になるかと思います」
「ふむ、テイルでは出来ないのか?」
「テイル、答えなさい」
「はっ! 鍛冶師の仕事を奪っていいのは緊急時のみです。 それに私の本懐は錬金術師であり、勇者にございます。 それ以上は...」
今でさえ本懐から大分外れたことしてるんだから多めに見ろよ。 他の生産職の仕事奪わせるなよ。 っていう遠回しな言い方だ。
「ならばテイルよ、なにか策はあるか」
「テイル、答えなさい」
「はっ! まずは私の同級生の父の経営している鍛冶場にて製法を広めます。 そこを礎に新たな一歩を踏み出して行きます。 陛下や宰相を含めここにいらっしゃる方々は職人の気質をご存じでしょうか?」
「いや、噂では気難しいとは聞いたとこはあるがその程度しか…。 宰相はどうだ?」
「私もその程度しか…。 他の者はどうだ?」
ざわざわするが同じ様な返答だ。 それもそうだろうな、平民の…特に生産職の気質なんて知っても何にもならないんだし。
「僭越ながらお答えします。 まず鍛冶師…彼らは見て覚えます。 なので良質な鍛冶場には視察に行きます。 そして見た物を超える為に試行と思考を繰り返します。 その為、他の事などどうでもよくなります。 素材の事、槌を振るう力加減、火の温度…様々な事を思考し試すでしょう」
「鍛冶師とはそのような特性があったのだな。 宰相聞いたか? 彼らは見て覚えるのだそうだ。 我々では到底考えられんことだ」
「えぇ、そうですね…。 下々の者に目を向けて居なかった事が良く分かりました」
「次にここに今いらっしゃっている薬師達。 彼らも職人です。 彼らは何度も失敗を重ねて初めて一人前になります。 最初はポーションどころか、風邪薬すら作れないことが多いです。 ですが、天職を信じ、諦めず人の病や怪我を治そうという彼らの意思が、彼らを成長させ、一人前の薬師にするのです。 殆どの薬師は鑑定のスキルを持っていますがあれは後発的な物です。 自分で作った失敗作の薬やポーションを見て、試飲するから芽生えるのです」
「そのような事が…。 おい、財務、今の宮廷薬師の給金は幾らだ」
「はっ! 月に金貨一枚から三枚でございます…」
「宰相、余の考えが分かっておるか?」
陛下が何やら怒っているようだ。
金貨一枚から三枚って冒険者よりもらえてないもんな。
それでも宮廷に入れて薬の研究させて貰えてるから続けてるのだろうか?
「わかっております。 陛下の為されたい様為さって下さい」
「財務、今までの話を聞いて、余は宮廷薬師の給金を上げるべきと思うのだ。 そうだな、月に金貨二十枚くらいには」
金貨二十枚…B級くらいの冒険者が稼ぐ額か。
それでも少ないが今後の働き次第では上がりそうだな。
頑張れ、万能薬作って見せろ!
「それは上げ過ぎでは!」
総務が怒鳴る。 一国の王にして良い態度じゃないよ、それ。 人の事言えないけど。
「では、誰が余の命を救うのだ? 聖女が、僧侶が常に傍に付いて居てくれるのか? 違うだろう? ならば救えるのは彼らの薬だ。 流行り病にすら対抗出来ると聞く、ならば給金を上げよ」
「はっ! 仰せのままに」
その場で宮廷薬師からすすり泣く声が聞こえ始めた。