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第九話 婚約者の影

ついに念願の外出の許可が下りた。

これでやっと出歩くことが出来るんだ...。


なんて良い日なんだろうか。


廊下で兄上とすれ違う。

すると兄上に呼び止められた。


「おい、お前は冒険者になるようだな?」


「はい、魔法師ギルドにも登録しようと思っています」


「そうか、せいぜい我が家の名前を穢すなよ?」


「はい、分かっております」


ほんの数秒の会話だ。 だけれど兄上が嫌いになれない...。

夢の男の家族が俗に言う毒というやつだったからか、優しかった兄が忘れられないのだ。

兄上は僕が十歳になるくらいまではとても優しく、とっつきやすい人だった。

だが今は正反対の様な人になってしまっている。


そんな余韻(よいん)(ひた)りながらも書物庫へ行き、魔法の本を読む。

もう家にある数少ない錬金術の本は全て読み漁ってしまい、ほぼ内容も覚えている。

なぜ家に錬金術の本があるのかは不明だがかなり古い本の様ではあった。

それもあって魔法の理解度を高めようと魔法の本を読んでいるのだ。


魔法の行使には体内の魔力を使う。 これは大気を漂う魔素とはほぼ同じ物だが、決定的に違う物という扱いになっている。

また、魔素の濃度の高い所は魔物が多く生息し、濃度の低い場所よりも強い個体が多くなっているとの事だ。


冒険者になるからには知っておかないといけない知識の一つらしい。

小一時間読んだあと、夕食の時間に近づいていたので一階に降りることにした。


食事の時間はまた僕は居ないものとなっていた。

これは本当に精神的によろしくない。

実の母にまで居ないもの扱いされていると心が折れる。

そうしている間に気になる話題が出てくる。


「そういえば、テイルの婚約者のマキナ・フォン・クリスエル嬢がテイルに会いたいと言っているらしい」


「そうなのですか? 僕に婚約者が居たのですね」


「あぁ、だがお前をいずれ追放するためにその婚約は取り下げさせてもらうつもりだ」


そんな話が進んでいたことは一ミリも知らなかった。


すると兄上が、


「テイル如きが公爵令嬢であるマキナ嬢と婚約すること自体が間違いだったのです。 父上。 僕が代わりに婚約者になれる様にどうか取り計らっては頂けませんか?」


「ふむ、よかろう。 しかし、マキナ嬢はテイルに会うことを所望している。 お前がマキナ嬢を欲するのであれば自分で手に入れろ」


「分かりました。 どの様な手を使っても?」


「ある程度ならかまわん。 だが家名を穢すことは許さん」


なんか悍ましい会話をしている。


「分かっております」


兄上がなんか怖い事を言い始めた。 僕には言いくるめることも止めることも出来ない。

そんなことをしたら何をされたか分かったものではないからだ。

まぁ良いんだけど、なにか悪い様に転がる気がしてならない。


するとセバスが話に割り込んできた。


「サイド様は既に婚約者がいらっしゃいますが、クリスエル様は第二夫人になさるおつもりで?」


「あぁ、そうだ。 次期当主の僕に嫁げるのだから悪いようにはさせないさ」


「なるほど。 かしこまりました。 私共でも色々裏で手を回しましょう」


果たしてセバスって普通の執事なのだろうか。

元々掴めない男だが、何を考えているのか一切分からない。

この人にだけは心を許さない様にしようと強く決めている人物の一人だ。


夕食も終わり、僕は自室へと戻る。

明日は街に下りて冒険者登録を済ませよう。

明日へ備えての準備も終わり、そろそろ横になる。


そうして淡い期待と、僅かな不安を胸にそのまま眠りにつくのであった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] たかが伯爵令息(片親はメイド)が公爵令嬢に対して不遜過ぎるな… 格が違い過ぎるのに、この一家にはアホしか居ない?
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