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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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誘拐事件?

「お疲れ様でした。」

 撮影が終了し監督から労いの言葉と花束を受け取ると彩華あやかは挨拶もそこそこに現場を後にした。シェミハザの件もあり早くやまとに帰らねばならないところだが、その前に済まさねばならない用事があった。

「コソコソしてないで出てらっしゃい。」

 今は使われていないであろう古びた倉庫の中。別に張り上げた訳ではないが彩華の声はよく通った。物陰からゴソゴソと複数人の男たちが現れ、最後の1人は少女の頚にナイフを当てて出てきた。

「手前ぇを誘拐して、たんまり報償金を稼がせて貰うぜっ! 」

 男の言葉に対して彩華に焦った様子は無い。

「師匠、これで良かったんですかぁ? 」

 声を挙げたのはナイフを当てられている少女だった。怯えた様子など微塵もない。その瞬間に彩華は真っ赤な扇子を取り出すと広げて投げた。扇子がナイフを持った男の手に当たると男はナイフを落とした。男の手を抜け出した少女はそのナイフを蹴り飛ばし、扇子を拾うと短距離走の選手のような猛ダッシュで彩華の背後に回った。

「手前ぇ、さっきまで泣きべそかいていやがったくせに!? 」

「これでも女優で緋翔彩華の一番弟子なんだから。演技よ、え、ん、ぎ。」

 彩華はドヤ顔の少女の襟元を掴んで下がらせた。

「女優って… まだ卵でしょ。それに付き人にはしたけど弟子にした覚えはないわよ? 」

「そんな師匠~ 」

 この情けない声を挙げた少女の名は暮内くれないあかね。元々は神問官の研修生として彩華の元にやって来たのだが、相手が人気女優の緋翔彩華と知って女優業も弟子入り志願していた。

「手前ぇ、人を無視してんじゃねぇっ! 」

 男が痺れを切らしたように叫んだ。すると彩華は呆れていた。

「あら、人質がなくなったら逃げるかと思ったのに。後をつけて報償金を懸けた相手が見つける予定だったのよ? 」

「それなら、おとなしく捕まりやがれ。依頼主に会わせてやるぜ。」

 確かにそうなのかもしれないが、彩華は首を横に振った。

「それは嫌よ。誘拐なんてされたら下世話なニュースにされかねないでしょ。まぁ、いいわ。あなたたちを捕まえれば、いずれその依頼主も出てくるでしょ。」

 彩華は煽っていた。相手が破戒者であれば問答無用なのだが男たちは金で雇われただけのゴロツキのようだ。既に茜を誘拐した時点で疑わしいのだが、正当防衛に持ち込めば倒しても問題にはならない。神問官は警察ではなく聖職者なので破戒者以外については民間人と同様なのである。特殊な権限を持つが故に制約も多いのだ。

「たかが女1人で何が出来る。野郎ども、多少痛い目に会わせてやれ。」

 すると彩華の表情が少し厳しくなった。

「たかが女? 問題は男か女かじゃなく、どっちが強いのかよ。一度にいらっしゃい。天女の舞いを見せて、あ、げ、る。」

「やっちまえっ! 」

 次の瞬間、彩華は両手に広げた真っ赤な扇子を持って舞い上がった。優雅に。華麗に。それはまるで宙に舞う火の鳥のように。そして次の瞬間、男たちはバタバタと倒れていった。

天翔炎舞てんしょうえんぶ、御満足いただけたかしら? 」

 男たちに彩華の問いに答える余力は無い。そこに警察のサイレンが聞こえてきた。

「茜、通報ご苦労さん。いいタイミングよ。」

 一般犯罪は公安や特務ではなく警察の仕事だ。逮捕後に取り調べの結果、移送される事はあるが受け持ちがハッキリしない場合も取り敢えずは警察が動く。

「ごごごごごご苦労様です。」

 駆けつけた警官は人気女優を目の前にして、これはこれで舞い上がっていた。

「後、お願いしますネ。」

「ははははいっ! 」

 彩華が軽くウインクをすると警官は顔を赤くして固まっていた。これもファンサービスのようなものだ。こんな事があった… と倭に戻ってきた彩華は歌音かのんに話していた。

「いつもながら凄いですね。」

 そう言ってお茶を運んできたのは莉音りおんだった。

「なんで、猟魔りょうまの助手が当たり前みたいにお茶淹れてんだ? 」

 猛是もうぜからすれば、こんなオンボロビルに集まってこなくてもよさそうなものだと思っていた。

「これは探偵事務所から持参した茶葉ですが、お口に合いませんか? 」

 少し不安そうではあるが猟魔の前ほど緊張した様子はない。いや、猟魔の前では緊張というより神経を使っているのだろう。変わり者という意味では猛是も変わり者かもしれないが猟魔のように機嫌を損ねないように気を遣う必要が無い分、気が楽なのかもしれない。

「そうじゃなくて、なんで猟魔んとこのアシスタントが俺んとこで給仕なんかしてんだ? 」

「なんだ、そんな事ですか。襟谷えりやさんはセイメルさんのお相手がお忙しそうなので僕の方から買って出ました。」

 まるで当たり前のように莉音は答えた。猟魔と一緒に訪れる時はお湯の温度やカップの温めか方など注文が多いので莉音が淹れている。つまり勝手知ったる他人の家、この事務所の給湯室は使い慣れていた。それでも猟魔からするとカップの縁が厚いなど不満が絶えないのだが。

「でも誘拐事件に巻き込まれるなんて大変でしたね。」

 歌音は話題を切り替えようと彩華に話を振った。

「あんまりウロチョロされて撮影に支障が出てもスタッフに迷惑かけちゃうから、こっちから仕掛けたようなものだから。私には、この10階まで階段で昇ってくる方が、よっぽど大変よ。」

 まだボヤキは止まりそうになかった。

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