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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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それぞれのお仕事

「カーットっ! 」

 緋翔ひしょう彩華あやかは大人気女優である。そして神問官インクイジターアヴェーノ・彩華・セイメルでもある。探偵の猟魔りょうまと違い、彩華やミュージシャンの玄武くろむは神問官と両立が少々、厄介である。それはロケやツアーで担当地域を離れざるをえない事があるからだ。もちろん、副業を認めている以上、組織側で留守の対応はしてくれている。

麗華リーファ、いつから私の追っかけになったの? 」

 休憩に入った彩華は視界に入ってきた女性に声を掛けた。

北都ペドォゥの神問官は、それほど暇ではない。」

 彩華に声を掛けられた麗華は不機嫌そうに答えた。

「なら、その忙しい麗華が何の用かしら? 」

 北都は彩華たちが所属するやまとより文字通り北にある都である。縄張り意識という訳ではないが、北都の神問官たちは何かと倭の神問官をライバル視していた。

「上からの通達だ。」

「なぁんだ、伝言係? 」

 不機嫌そうな麗華に対して、彩華は冗談とも挑発ともとれるような口調で言った。

「“見張る者(エグリゴリ)”のシェミハザに動きがあるそうだ。おそらく例の少女の件だろう。」

 麗華の言葉に彩華は少し不思議そうな顔をした。

「どうした彩華? 何か納得いかないようだな? 」

 麗華は彩華の顔を覗き込むように尋ねた。

歌音かのんとは、ロケに来る2、3日前に会ってきたけどシェミハザほどの大物が動くようなには見えなかったと思ってね。何か隠しているのか、本人も知らない秘密があるのか… 」

「星にでも訊いてみたらどうだい? 星見人ホシミストの家系なんだろ? 」

 麗華に言われて彩華は否定するように手を振った。

「そりゃ、生まれてくる家を選べる訳じゃないから、セイメルに生まれたことは否定しないけど、私は神問官であり女優よ。星見人じゃないわ。」

 そう言うと彩華は立ち上がって話を打ち切った。次のシーンの撮影が始まる。

「わざわざ、ありがとう。あのには猛是もうぜがついているから心配要らないと思うけど、できるだけ早めに帰るようにするわ。」

 撮影に向かう彩華の背中を見送りながら麗華は首を傾げた。

「猛是ねぇ… 彩華も北都うちの老師も評価しているけど私には彼の良さが理解出来ないわ。」

 ボソボソと呟きながら麗華は北都に帰っていった。そんな会話を知ってか知らずか、深熟のスラム街にあるビルの10階の事務所で猛是はくしゃみをしていた。

「ハックション! 」

「すみませんっ! 」

 事務所の掃除をしていた歌音が頭を下げた。

「ん? 何、謝ってんだ? 」

 猛是は一瞬、きょとんとした。

「埃、立てちゃったかなぁって。」

 歌音の出で立ちはと言えば頭巾にゴーグル、マスクに割烹着。軍手をはめて片手にはハタキを持っていた。この事務所に掃除機などという物は無い。だが、幸か不幸か歌音は掃除機を使った事が無かった。ハタキに雑巾、箒に塵取り。手慣れた様子で事務所の掃除をしていた。

「だから掃除なんてしないでいいって言ったろ? 」

 猛是は換気がてらに窓を開けると、もう一度くしゃみをした。倭は季節で言えば冬であり、外気は乾燥して肌寒かった。それでも埃にまみれているよりはマシだと思った。

「一応、この事務所の住み込みの従業員なんですから、掃除ぐらい、させてください。」

 住み込みの従業員。それが現在の歌音の立場である。“見張る者”から逃れる為とはいえ、村の家を引き払って唐京に出てきた挙げ句、劇団の話が詐欺だったので、このままでは住所不定無職。そんな少女が神問官の事務所で寝泊まりしていると云うのは世間的に色々と厄介な話になりかねない。だが、住み込み従業員と言っただけで行き場の無い少女を保護した美談にしてくれる。故に建前とは繕っておくべきだったりする。ただ、本人同士には認識に齟齬があった。雇った猛是は本当に建前だけのつもりだった。しかし歌音は本気で事務員の仕事をする気でいた。神問官としては歌音は理由はまだ、定かではないが“見張る者”に狙われている保護対象である。既にシェミハザという大物が動き出したという情報もある。シェミハザについては神問官側でも調べているのだが歌音については直接襲われているところを見た訳でもなく、歌音の話以外に今のところ証拠が無い。その為、世間に“見張る者”から保護しているとは言いにくかった。公職だの聖職だのという類いは世間では珍しくもないような些細な事でも騒がれるものである。

「何やってんだ!? 」

 歌音が茶殻を床に撒いていた。猛是の事務所では偶に来客があってもインスタントコーヒーぐらいしか出さないので、お茶は味も香りもなく色しか出なくなるまで使っていた。料理に入れても彩りにもなりはしない。

「こうすると埃が纏まって掃除が楽なんですよ。」

 歌音は笑顔で答えた。猟魔の事務所のような毛足の長い絨毯ではこうもいかないし、インテリジェンスビルなら床下の配線に茶殻が落ちそうなものだが、幸い老朽化したビルにその心配は要らなかった。さすがに一回の掃除で見違えるようにとはいかなかったが、それでもかなりマシになった方である。

「次、何しましょう? 」

 働かせる気の無い雇い主と働く気満々の従業員。猛是は少し頭が痛くなっていた。

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