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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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決着

 恐怖の大王を防がれ、死神の鎌を防がれシンは戸惑いを感じていた。

(何故だ? 何故、人間ごときに七柱の1人である私が歯が立たない? 何故、恐怖する? )

 シンは初めて覚えた恐怖という感覚に戸惑っていた。

「諦めな! 手前ぇじゃ俺には勝てねぇよ! 」

「黙れ……黙れ黙れ黙れぇっ! 私はこの世界の神なのだぞ! 」

 もはやシンは怒りに囚われて自我が崩壊しかかっていた。

「お前はもう、かつて神だった者の残滓に過ぎないんだよ。」

 宇宙樹ユグドラシル生命の樹(セフィロト)から作られた木刀は例え、この星の外から来た者であろうと絶ち斬った。

猛是もうぜ、油断しないで。」

「何か来るわっ! 」

 マリーナと彩華の声に猛是も身構えた。突如、上空に現れた巨大な光の球は圧縮されたように小さくなり、やがて人型となって猛是の前に舞い降りた。

「久しいなモーゼ。」

 久しいと言われても猛是には見覚えがなかった。けれど、この状況下で現れるとしたら思い当たる人物は一人しかいない。

「なんだ、七柱の主柱がお出ましとは倅たちの仇討ちか? 」

「いや。我々は暫くこの星を君たち人類に預ける事にした。無論、星系の外に出てこようとするなら、また新たな“見張る者(エグリゴリ)”を派遣する事になるがね。」

「おいおい、身勝手な話しだな? とは言っても手を退いてくれるってんなら、こっちも助かる。もっとも宇宙開発なんてのは俺たち神問官インクイジターの預かり知らない話なんで保証は出来ねえがな! 」

 すると主柱は大きく頷いた。

「まあ見たところ、今の(・・)モーゼが生きているうちに人類が外宇宙に出て来る事は無さそうだから、これで一旦手打ちだ。時にカノンはどうしている?」

「歌音? そういや、お前らにとっちゃ鍵だったな。今は立派に俺のアシスタントを務めてるよ。」

「ならばよい。契約の箱(アーク)の鍵である以上、我ら以外にも狙う者が現れるであろうが、モーゼの側が恐らくこの星で一番安全な場所だろうからな。この星の行く末は一先ず任せたぞ。」

 そう言い残して主柱は遥か彼方に飛び去った。


 ***


 それから数ヶ月後、この星を救った英雄である筈の男は今日も大都会唐京のスラム化した雑居ビル群の中で昼寝を決め込んでいた。

「ふぅ、相変わらず直らないエレベーターだな。」

監察官インスペクターに用は無いぞぉ。」

 久来くくるの声に猛是はソファに寝転んだまま答えた。

「監察官ではなく今は公安局長だ。そんな事より教会のマリーナ教皇から呼び出しに応えないと苦情が来ている。」

 すると猛是は欠伸をしながら起き上がった。

「なんで公安に苦情入れるかなぁ。動く公安局も公安局……てか普通、局長自ら出向く?」

見張る者(エグリゴリ)の一件の後始末が終わるまでは何処も人手が足りていないのでね。それは教会とて同じだろう?」

 局長であった荒木場の件もあり、保安局は機能不全に陥っていた。それにより一時的に公安局は今まで唐京だけであった管轄を全国に拡げざるを得なかった。

「そうは言っても奴らを追い払ったら専業神問官は収入が無いのに、その上教会のタダ働きなんて、やってられないって言うの!」

「政府から金一封はどうした?」

「あんな雀の涙、龍宮のツケ取り立てられて一銭も残ってねえよ。」

 まあ大体の金一封とは、その程度の額しか出ないものである。そこへ歌音が帰って来た。『見張る者』が居なくなったとはいえ、まだ狙われる可能性は完全には消滅していないのだが本人はあくまでも猛是のアシスタントのつもりなのだから買い物くらいは当たり前だと思っている。ちなみに代金は綾華からカードを借りている。猛是も籠の中の鳥では気の毒だし、いざとなれば救いに行けると思っていた。

「久来局長!すみません、お茶もお出ししないで!」

 慌ててお茶を淹れに行こうとする歌音を猛是が呼び止めた。

「もう帰るそうだから、お茶は要らないぞ」

「…… そうだな。こちらも、そろそろ葵探偵事務所に行かねばならないのでね。教会には早めに連絡を入れてもらえるかな。それでは失礼する。」

 そう言うと久来は足早に階段を降りていった。

「まったく……事務所まで来なくても……」

「それは他に連絡がつかなくなってるからじゃないんですか?」

 通信費をケチった結果とはいえ、直接踏み込まれるのは予想していなかった。

「今、悲鳴が聞こえなかったか?」

「また、そうやって誤魔化そうと……」

「ちょっくら見てくる!」

 言うが早いか猛是は10階の窓から飛び出していった。

「あんっ!また、あたしの出来ない事するぅ!アシスタントなんだから置いて行かないでくださいよぉ!」

 歌音も慌てて階段を降りていった。猛是が悲鳴の聞こえた現場に着くと見知らぬ少女が柄の悪い男達に絡まれていた。

「おいおい、嫌がってんじゃねえか!」

「なんだ、手前ぇ!邪魔すっとただじゃおかねぇぞ!」

「汝傷つけるなかれ……」

 それを聞いてもう一人が慌てだした。

「あ、兄貴!ヤバいっス!」

「何ビビってんだ?この御時世に妙な格好しやがって!」

 やはり猛是の銀髪に銀縁のミラーサングラスを掛け、純白のお洒落か奇抜か微妙な服装は変に見えるらしい。

「いや、だから前に話した田舎娘を言いくるめようとした時に邪魔してきた……」

「ん?あん時の破戒未遂か。二度目って事は覚悟はいいな?」

 猛是は2本の白銀の直刀を構えた。

「何が覚……悟……だ……って、その構え、あの宇宙人どもを追っ払った……え、あ、いや、冗……冗談ですよ。その……ねえ。こういう悪い大人に引っ掛からないように注意してたんですって。なあ?」

「そ、そうですって。それじゃ失礼しまあす!」

 男達は脱兎の如く逃げ去った。

「あ、ありがとうござます……ございます。どちら様ですか?」

 どうやら少女の方は猛是に見覚えが無いらしい。

「俺は神に問う者。正義を貫く者。教会から唐京は倭皇城わこうじょうの城西を預かる神問官、品井猛是。あのオンボロビルの『10階の猛是』だ!」

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