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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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交渉失敗

「セイメル? 星見人ホシミストのセイメルさんですか? 」

 歌音かのんの反応に彩華あやかが驚いた。

「え… 女優の私を知らないのに星見人の家系は知ってるの? 普通、逆よ… って、宝泰峰ほうたいほうから降りてきたばかりじゃ仕方ないかぁ。そうよねぇ。うん、仕方ないわよねぇ。」

 少し… というより結構、彩華は落ち込んでいた。だが、歌音はそんな様子に気づきもせず質問をぶつけた。

神問官インクイジターで女優で星見人なんて大丈夫なんですか? 」

「え? あぁ、神問官は監察官インスペクターみたいな公務員と違って独立組織だから副業に問題はないわ。それに私は星見人じゃないの。」

 今度は歌音がガッカリした。

「そうなんですかぁ… せっかく視て貰えるかもって思ったのになぁ… 」

 あまりにも歌音が残念がるので彩華も落ち込んでいられなくなった。

「ごめんなさいね。父が一緒の時にでも。」

 すると猛是もうぜが笑い出した。

「そんなの、星見人が視るまでもないだろ? 歌音は10代までは波瀾万丈。そっから先は平穏な日々だ。」

「何、適当な事、言ってんの? 」

 自身は星見人ではないが有数の家系出身である彩華からしてみれば適当な発言はバカにされたように感じたのだろう。

「だって、そうだろ? 物心ついた時には見張る者に追われていて宝泰峰の赤戸あかど村に隠れ、見つかって村を出たら騙されて金も取られて行く宛も無く唐京で迷子。ここまで波瀾万丈って言っていいんじゃないか? 」

「それなら先が平穏な日々っていうのは? 」

 確かに、ここまでの歌音は波瀾万丈かもしれない。歌音の話からすれば、それは結果だ。

「この神問官である猛是に出会ったからだ。」

 それを聞いて彩華は呆れたように頷いた。

「… そうね。相手が“見張る者(エグリゴリ)”なら下手な警察より頼りになるわね。」

「そこで同業者であるアヴェーノ・彩華・セイメルに頼みがある。歌音の面倒を頼めないか? 」

「それは無理。」

 彩華は即答した。

「ヲイヲイ。こんな若い女の子を俺ん所に泊めろってか? 歌音だって役者になるつもりで唐京に出て来たんだし彩華の方が適任だろ? 」

 猛是の言うことにも一理ある。

「私、明日からロケなのよ。撮影中は襟谷さんの警護は出来ないもの。それに猛是のこと、人としてはともかく、聖職者としては信用しているから襟谷さんに手を出したりしないでしょ? 」

 猛是が言葉に詰まると歌音が口を挟んだ。

「あの… セイメルさん。歌音って呼んでもらっていいですか? 」

「え? いいわよ。それじゃ私は彩華って呼んで貰えるかしら? 」

 歌音は有名女優を名前で呼んでいいものか迷っていた。

「変に気を使わなくていいわよ。彩華なら仕事関係者の居る場所でもプライベートでも変えなくていいでしょ? 咄嗟の時って呼び慣れた呼び方をしがちだから彩華の方が私も都合がいいのよ。」

「それじゃ彩華さん、猛是さん。なんか、御迷惑そうなので、あたし行きますね。」

 なんとなく自分を押し付けあっているように思えた歌音は立ち去ろうとした。

「待てよ歌音。誰も迷惑だなんて思ってねぇ。俺たちは、どっちが歌音の為かを話してただけだ。」

「でも… 」

「汝、欺くなかれ。神問官として歌音をここで放り出す訳にはいかねぇんだよ。」

 そこで彩華はパンと手を打った。

「じゃ決まりね。今日は私も久来くくる監察官からの連絡で様子を見てこいって言われただけだから。もう行くわね。大島さん、こうぞさん、もういいわよ。」

 声を掛けられてアスハとユウ、それに海美うみともう1人が店の中に戻ってきた。

「なんだ、ママさん。居たんだ? 」

「居たんだじゃないよ、彩華ちゃん。来るなら来るって言っといておくれよ。」

「え゛~っ!? ママさんも緋翔ひしょうさんの知り合い!? 」

 やはり、大声をあげたのは明日葉だった。

「あぁ。猛是が10階に住み着いてから時々寄ってくれてるからね。」

「それじゃママさん、これ猛是のツケ。」

 そう言って彩華は札束を取り出した。

「多いよ。スラム街じゃカードが使えないからこそ、正直な商売してんだ。それになんだっけ… 汝、くよくよするな… じゃない… 」

 カードというのは、ある意味で信用商売だ。スラム街の店と云うだけでカード会社も入って来なかった。

「汝、欲するなかれ、ね。これは猛是もママも欲しがったんじゃなくて私が自分から出したんだから問題ないわ。どうせ今日の分も払えやしないんだから先の分まで貰っておいて。明日も早いから、またね。」

 そう言うと彩華はアスハとユウに軽く手を振って店を出て行った。

「猛是さん。緋翔さんとはどのような、ごか…御関係で? 」

「アスハっ! 客のプライベートには踏み込まない。ツケも綺麗になったし前金も受けとっちまったから、ちゃんと客として扱いなっ! 」

 目の前で、こう言われると客として扱われていない気がしなくもない。

「海美、開店前にちゃっちゃと何か作っておやり。アスハとユウは開店準備だよっ! 」

 歌音はあきらかに生活のリズムの違いを感じていた。かといってホームシックになっても帰る場所は無い。今は猛是を頼るしかなかった。こうして、彩華に引き取って貰う交渉に失敗した神問官猛是と歌音の同居生活が始まった。

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