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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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南へ

 倭の上空に突如として現れた謎の乗り物が、唐京へと移動を始めたという報道を倭の北にある北都ペドォゥの集会所で神問官インクイジターである麗華リーファと、その老師は聞いていた。

「老師、どうなさいます? 」

 北都の神問官は倭の神問官と教会が対立を始めてから中立の立場をとっていた。教会が事実を隠蔽しているので報道では謎の乗り物となっていたが老師には、それが何を意味しているのか理解していた。

「ふむ。アレが倭に現れたという事はマリーナ嬢が動いたという事かのぉ。」

「マリーナ… つい最近、水の枢機卿になったというマリーナ殿ですか? しかし、彼女は破戒者として教会から追放されたと通達が届いていますが? 」

 麗華はまだ、事の経緯いきさつを知らなかった。

「マリーナ嬢は先代教皇の孫娘だ。もちろん、世襲などではなく実力で枢機卿にまでなった。その実力たるや教会でも十指に入ろう。」

 十指と聞いて麗華は指折り始めて途中で止まった。

「老師を含めて… 十指ですか? 」

 すると老師は首を横に振った。

「いやいや、儂なぞは数えてくれるな。教皇、唐京の四人、マリーナの入る前の枢機卿の四人、それにマリーナだ。もっとも教会が崩壊した今となっては何の意味も無い。寧ろ教会に反旗を翻した方が今や人数が多い。そして教会に残った方が“古代の遺物(エンシェントレリック)”を使い、マリーナたちは“隕石の金属器具メテオ・メタル・マテリアル“を使い続けている。教会は教皇に在ろうとも、教義はマリーナたちと共に在るのは明白。儂は反教会にまわる。麗華も一人前の神問官インクイジターじゃ。自分の身の振り方は自分で決めるがよい。」

 それを聞いた麗華は自嘲した。

「一人前? なんの御冗談ですか。今のお話からすれば北都ペドォゥの神問官が倭の神問官に劣っているようではありませんか。老師が唐京へ… 南へ行かれるのでしたら私も参ります。そして北都の神問官が優れている処を御覧にいれましょう。」

 北都の神問官の倭に対する対抗心は根深かった。老師は弟子と敵対せずに済んだ事には安堵したが、麗華が功を焦るのではないかと不安にも思っていた。だが、今は唐京で神問官と“見張る者(エグリゴリ)の決戦が始まろうとしているのだ。今は老師も己の正義に従って行動するしかなかった。

「うむ。南へ下るぞ。」

 老師の言葉に麗華も力強く頷いた。その頃、七柱が1人シンも唐京に迫る“方舟アーク”を待ち構えていた。

「方舟が動いたか。教皇から何の連絡もないとすれば… 先代の血筋の者という事だな。役立たずの教皇などはともかく義兄上あにうえでも止められなかったという事は油断ならんな。どちらにせよ“契約の箱(アーク)”が2つ揃ったのだ。あの鍵となる娘さえ手に入れれば、どちらかが開くという事だ。」

 そう言ってシンはダイヤモンドスカルの上に手を置いた。

「とはいえ、時間稼ぎは必要か。行け。」

 シンの命令に呼応して黄金のデルタ型の戦闘機が“方舟”に向かって発信した。“契約の箱”が載っている以上、撃墜する訳にはいかないが、シンとしても反教会派の神問官、全てを相手するには面倒だと捉えていた。

「手駒が無いというのも不便なものです。“見張る者”も、その指導者も居ない。教会も機能不全だ。故に不幸にも、この星の人類は私と直接、戦わねばならない。しかし、同情はしない。」

 シンは椅子から立ち上がると唐京へと降り立った。そんなシンを銀髪に銀縁のミラーサングラスを掛け、純白の服装を纏った猛是が待ち構えていた。

「… 白衣の銀狼か。よく私が来るのが判ったな。」

「うちには名探偵が居るんでね。」

 そう言った猛是の視線の先には空色の髪に青縁の眼鏡、紺碧のスーツを着た猟魔が居た。

「なに、簡単な事です。指導者から“名もなき者”に至るまで“見張る者”は、ほぼ壊滅状態といえる。そして教義に背を向けた教皇派も、行方不明の首謀者である教皇を除けば、逮捕されたと聞く。教皇の立場を考えると今の教会と手を組んでいても政治家にメリットは無いからユーロピア政府も手を差し伸べる事は無いだろう。となれば、手駒を失った七柱が、この戦況をひっくり返す為には直接、襟谷さんを狙ってくるしかない。」

 猟魔の説明を聞いていたシンも苦笑した。

「なるほど、もっともな説明だ。しかし、私が七柱のうちの一柱に過ぎないという考察が抜けていないかな? 」

 それを聞いても猛是に動揺する様子は無い。

「確かに貴様は一柱に過ぎない。主柱でもない貴様の為に他の六柱は動くのか? 」

「何っ!? 」

 寧ろ猛是の言葉にシンの方が動揺を見せた。もしシンが主柱の座を狙っている事が主柱に知られていたら… それは親子といえど手を貸すとは思えなかった。

「白衣の銀狼。貴様さえ片付ければ後は何とでもなる。鍵を手に入れ何れかの“契約の箱”を開き私が主柱となる。そうすれば残りの柱とて動かせる。」

 シンの言葉に猛是は、やや首を捻った。

「ちょいと俺を買いかぶり過ぎじゃないか? 俺は一介の神問官だぜ。神に問う者、正義を貫く者だ。そして貴様は俺の正義に反する。おとなしく投降… は、しねぇか。」

 猛是と対峙したシンには余裕が見られた。

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