表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10階の猛是  作者: 凪沙一人
32/42

混沌

 そこには上下、黒のレザーで身をかためた男とパンキッシュな服装の少女が立っていた。

「遅刻だよ、玄武くろむ。確かにライブ中継だが玄武が言うと意味が違って聞こえるな。」

 唐京とうきょうは城北の神問官インクイジター玄武と、そのアシスタント六華りっかだ。

「悪ぃ。アンコールで長引ぃちまった。」

「そんな事だろうと思ったよ。」

 当たり前のように言う玄武に猟魔は平然として返した。

「にしても考えたな。ライヴなら切り取りだの加工だのって言われねぇもんな。」

 玄武の言葉に猟魔が答える前にイグニスが口を挟んだ。

「貴様ら、わかってんだろうな? こんな事、全世界に生配信したって事は倭保安局の信用も教会の信頼も失墜だっ! もう後戻りは出来ねぇんだぜ? 」

「神問官とは神を問う者。人々に神を問い、答えなき者や誤りたる者に聖義を伝える者。教会や保安局の建前に興味は無いのでね。」

 毅然と返す猟魔に動揺する様子は無かった。

「こうなれば貴様ら、まとめて俺の古代の遺物(エンシェントレリック)の餌食にしてくれるっ! 」

 イグニスが古代の遺物を取り出した瞬間、それは粉々に切り刻まれた。

「な… 何!? 」

 そこには銀髪で純白の服装を纏った青年が二振りの白銀の直刀を携えて立っていた。

「遅いなぁ。もう悟ったんじゃないの、俺たち相手に勝ち目が無いって。」

「も… 猛是… アザゼルは… アザゼルはどうしたっ!? 」

 指導者であるアザゼルが簡単に捕まるとはイグニスには思えなかった。

「俺もろとも自爆しようとしたんだろうけどね。そんな見え見えな事したって通じないよね。」

 つまり、アザゼルは1人で散ったという事だろう。

「フッ… ならば… せめて1人くらいは葬ってやるよ。」

 そう言うとイグニスは隕石の金属器具メテオ・メタル・マテリアルを荒木場を連行して戻ってきた久来に向かって放とうとした。久来ならば監察官といっても特別な道具もなければ“見張る者(エグリゴリ)”と戦えるような特殊な訓練を受けている訳でもない。猛是たちが無理でも久来なら道連れに出来ると思ったのだろう。しかし、隕石の金属器具が発動する事はなかった。

「もう、あんたは枢機卿でもなければ神問官ですらない。隕石の金属器具(そいつ)は使えねぇよ。」

 “見張る者”についた元枢機卿が故に双方の道具を所持していたのだろう。だが、この時点で教会ではヴィエールがイグニスの権限を押さえていた。

「はい、没収ね。」

 彩華が放心状態のイグニスから隕石の金属器具を取り上げた。

「それじゃ、後は任せたぜ。」

 対自爆用ケージにイグニスを放り込むと猛是は久来に引き渡した。イグニスを荒木場同様に特殊護送車に積み込むと久来は一礼して車に乗り込み去っていった。

「で、どういう事か説明して貰えるかな、猟魔? 」

 すると猟魔は怪訝そうに首を捻った。

「何か説明の要るような事があったかな? 」

「なんで久来からの依頼を断って俺を推したお前がここに要る? 」

 いまにも噛みつきそうな猛是を見て猟魔はクスリと笑った。

「なんだ、その事か。“見張る者”の指導者や教会の枢機卿が相手となれば私では役不足だ。猛是の方が適任という判断は正しかったと思っているよ。現に指導者アザゼルを1人で迎え撃ったじゃないか。」

 すると猛是は眉を顰めた。

「つまり猟魔はイグニスの裏切りに気づいていたと? 」

 猟魔は首を横に振った。

「いやいや、イグニスが裏切っているという確証が有った訳ではない。ただ、こちらの警備体制など、幾つか内通者が居る節はあった。そして漏れていると思われる情報内容から司祭以下ではないと推測はしていた。」

「司祭以下じゃないって、結局のところ枢機卿を疑ってたんじゃねぇか。」

 再び猟魔は首を横に振った。

「いや、私が疑っていたのは… 教皇だ。先ほどのイグニスの発言でイグニスと教皇が繋がっていた可能性は強まった。しかし、まだ確定した訳ではない。まぁ、“見張る者”が倭皇城わこうじょう地下の契約の箱(アーク)を狙っている以上、唐京を離れる訳にもいかないからね。教皇あちらはヴィエール卿にお任せするしかないな。」

 敵を欺くには味方からと言うが、『汝、欺くなかれ』とある神問官にとっては、それはない。猟魔は欺いたのではなく憶測で物事を語らない。推理に基づき、観察し考察し検証を重ね確証を得るまで迂闊な行動はしない。それが冤罪を生まない為には必要と考える。無論、緊急時には動かざるを得ない場合もある。それが独断専行と取られようとも必要とあれば動く。矛盾するように見えて整合性は取れていたりする。おそらくヴィエール卿はイグニスのような事はないと、どこかで確証を得ているのだろう。猛是はつくづく猟魔を敵に廻したくはないなと思った。

「それで、これからどうするんだ? 」

 やらねばならない事は多い。こういう場合に段取りを組み立てるのは猟魔が得意だろう。教皇が破戒者なら後任はヴィエールか大地の枢機卿のどちらかだろう。水の枢機卿は就任して間もない。『鍵と共に』を意味する教皇選挙コンクラーヴェを開かねばならないが、そのような状況ではない。枢機卿の空席も埋めるとなると司祭にも空きが生まれる。教会は岐路に立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ