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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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叛抗

「どうやら尻尾を掴まれたみたいだな? 」

 イグニスが荒木場に侮蔑した視線を浴びせていた。

「な、なんの事だ!? 」

「あれだよ、あれ。」

 そう言って今度は視線を猛是もうぜたちの居た方へ向けた。

「かくれんぼは辞めにしようや、白衣の銀狼さんよぉ。」

「俺を、その二つ名で呼ぶって事は“見張る者(あいつら)”の仲間と見なして構わないって事か、炎の枢機卿イグニスっ! 」

 猛是の叫びに驚いたのは隣に居た久来くくるの方だった。

「枢機卿? 」

「あぁ。どうやら“見張る者(エグリゴリ)”と繋がっていたのは保安局だけじゃないらしい。」

 そんな猛是の態度にイグニスは苦笑した。

「意外と冷静だねぇ。もうちょっと驚いてくれると思ったのにな。」

「それなら、生憎だったな。俺は神に問う者、正義を貫く者だ。破戒者を前に動じる事はない。」

 猛是の答えにイグニスは渋い顔をして項垂れた。

「さっすが、風のヴィエール枢機卿の直系だな。自分の正義は曲げねぇってか? けどよぉ、俺も俺の正義は曲げねぇぜ。」

「まぁ待て。」

 身構えたイグニスを荒木場が制した。

神問官インクイジター監察官インスペクターが枢機卿と保安局長に逆らうって意味を理解してんだろうな? 」

「あら、とんでもない場面に出くわしちゃったみたいね? 」

 突然、照明が点くと通りの良い艶やかな声が響いた。そしてそこには赤い髪、口唇には真っ赤なルージュ。深紅のドレスを纏った女性が何故かマイクを握って立っていた。

彩華あやか!? 」

 驚く猛是を他所に集音マイクを肩に、カメラを担いだ研修中のレダと照明を担いだアシスタントの茜に合図を出した。

「緋翔彩華の彩ちゃんねる、世界同時生配信はいきなりのスクープになりました。」

「なっ… 辞めろっ、今すぐ配信停止しろっ! 保安局長命令だっ! 」

 世界生配信で自らの正体を大声で叫ぶ荒木場に見切りをつけて立ち去ろうとしたイグニスの前を彩華が塞いだ。

「へぇ。セイメル、師匠である、このイグニスに叛逆しよぉっての? こっちは枢機卿だよぉ? 同じ炎同士なら、それこそ火を見るより明らかだと思わねぇか? 」

 すると彩華は苦笑した。

「誰が師匠? つまらない冗句ね。私の師は先の炎の枢機卿… まさか? 」

 一瞬、彩華の背筋に悪寒が走った。茜とレダには久来による荒木場の逮捕劇を生配信するよう言ってある。猛是はアザゼルの相手をしている。イグニスは彩華が何とかするしかない。しかし、今感じた悪寒は悪い予感しかしなかった。

「先も今も炎の枢機卿に変わりはねぇだろ? 軟弱な奴より本当に俺から教わった方が強くなれたんじゃねぇ? 死に際なんざボロ雑巾みたいだったぜ。」

「ふむ。今の発言は汝殺めるなかれに叛いたと受け止めて宜しいかな? 」

 イグニスに声を掛けたのは、空色の髪に青縁の眼鏡、紺碧のスーツを着た青年だった。

「ヒュ~。ここで名探偵登場ってか、猟魔。今回の茶番劇は貴様の台本シナリオどおりって事か。他人に踊らされるのは御免なんでね。覆させて貰うぜ。」

 彩華が自分を落ち着かせるように深呼吸をした。

「私も修行が足りなかったかしらね。捕らえるわよ。」

「もちろん、そのつもりで来たからね。」

 彩華は真っ赤な扇子を両手に広げ、猟魔はベルトをスルリと抜いて一直線の細身の刀と化した。

「神問官程度に捕まるかよっ! 」

 イグニスが強大な炎を放った… かに見えたが一瞬にして猟魔が、それを消し止めていた。

「な… なにぃ!? 」

「別に驚く程の事は無いでしょう。教会本部の在るユーロピアの“契約の箱(アーク)”を四人の枢機卿が守っているのに、倭は唐京とうきょう倭皇城わこうじょうに在る“契約の箱”を何故、四人の神問官が守っているとお考えかな? 」

 イグニスにも猟魔の言っている事はわかる。しかし、枢機卿として認められない話しでもあった。

「バカな… 教皇からそんな話しは聞いてねぇぞ!? 」

「だそうです。」

 そこには猟魔のアシスタントである莉音が携帯端末をビデオ通話モードで構えていた。

「なるほど。先日、妙な問い掛けをしてきたと思えば、そういう事ですか。」

 端末の画面には緑の衣を纏った枢機卿の姿が映し出されていた。

「ヴィエールっ!? 貴様、教会に叛抗するつもりかっ! 」

 イグニスは忌々しそうに猟魔を睨み付けた。世界的有名でもある彩華による生配信も、ヴィエールとのテレビ電話も、段取ったのは猟魔だろう。焦りの見えるイグニスにヴィエールは淡々と答えた。

「違いますね、イグニス。先日も申したとおり、私の絶対は教会の教義です。そして教義から逸脱した時点で、その者は教皇ではなく破戒者だと。」

 遠く離れたユーロピアに居るとはいえ、この状況で落ち着き払ったヴィエールの態度がイグニスには気に入らない。

「やっぱり、優等生なお答えだぜ。どうやら互いの正義を、ぶつけ合わねぇといけねぇみたいだな? 」

「そのようですね。そちらに正義があれば… ですが。葵、そちらは任せます。私は教皇を捕らえねばならないので失礼するよ。」

 ヴィエールはそう言い残して通話は切れた。

「どうだ、ライヴって最高だろ? 」

 突然、ギターの響きと共に声がした。


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