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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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密会

「うちもですかぁ!? 」

 思わず声を挙げたソフィアを見て久来くくるが苦笑した。その様子を見てピッキーも笑い出した。

「寧ろ、お前だソフィア。」

「なんでやねん。うちの… 」

 猛是に反論しようとしたソフィアだったがピッキーに止められた。

「ソフィアは私みたいに自覚してないものね。」

「そないな先輩まで… 」

 項垂れるソフィアに歌音はそっとお茶を差し出した。

「あたしはソフィアさん、好きですよ。」

「おおきになぁ。そない言うてくれはるのは歌音ちゃんだけやわぁ。」

 ソフィアは歌音の両手をとって泣く… ふりをしていた。

「いったい研修中に何を学んできたの? 小芝居はいいから、これからの対応考えるわよ。」

 立場だけで言えば、この場には風の司祭の1人である守善も居るのだが、誰も水の司祭の1人ピッキーが仕切る事に異を唱えない。これは別に守善に仕切らせたくない訳ではなく、守善が面倒臭がるとわかっているからだ。もちろん部外者である久来も、その事には触れるつもりはないが手を上げた。

「挙手をして発言の許しを求めるなんて律儀なのね。もっとフランクでいいわよ? 」

 それでも久来はピッキーに一礼をしてから口を開いた。

「いえ、これは公安局の監察官インスペクターとして教会の神問官インクイジターに対する正規の依頼ですので。」

 するとピッキーも座り直した。

「わかりました。お話しは教会、水の司祭であるピックティンダル・スティングレーが承ります。ただし内容によっては、お受け出来ない場合、もしくは枢機卿や教皇の判断を仰がねばならない場合がある事を御承知願います。」

 一瞬で張り詰めた空気にたじろいだ歌音の肩に守善のアシスタントであり守善の営む骨董屋アンティークショップ閻輝堂えんきどうの店員でもある鈴鹿すずかりんがそっと手を置いた。久来の妹である麻耶を送って来る際に念願の唐京とうきょうに連れてきてもらっていた。凛としては観光もしたいところだったが状況が状況なので、そうも言っていられない。

「承知いたしました。公安局では“見張る者(エグリゴリ)”と内通の疑いがあるとしてピックアップしていた保安局荒木場(あらきば)局長が“見張る者”の誰かと会うという情報を掴みました。ただ、保安局は公安局の上位組織にあたります。つきましては現場の張り込みに城西の神問官、品井しない猛是殿をお借りしたい。」

「なんで俺? 猟魔の方が良くね? 」

 ピッキーよりも先に猛是が聞き返した。以前に慶繁けいはんにも結果的に同行しているし、一緒に保安局に狙われた仲でもある猟魔の方が適任だと思えた。

「猛是っ! 」

 話を聞くと言ったピッキーを差し置いた猛是にピッキーが眉を顰めた。

「ここは俺の事務所だ。それに俺の直上はこっちだしな。構わないだろ、錢瓶ぜにがめのおっさん? 」

「ったく。こないな時だけ上司扱いしよる。んまぁ、えぇやろ。」

 猛是も猛是だが守善も守善である。

「ええんですか、先輩? 」

 この様子にソフィアがピッキーに小声で声を掛けた。

「勝手にすれば。こっちも堅苦しいのは疲れるし。どうせ、この二人が人の言うこと、聞く筈もないし。」

 結局、ピッキーもピッキーであった。

「で、なんで俺なんだ? 」

 あらためて猛是は久来に尋ねた。

「実のところ、名探偵には断られた。その彼が猛是の方が適任の筈だとね。」

 猛是は一瞬、チラリと守善を見たが狸寝入りをきめこまれた。

「仕方ねぇな。で、いつなんだ? 」

「急ですまないが今夜だ。」

 久来の答えに猛是は苦笑した。毎度の事ながら“見張る者”絡みの話しは展開が唐突だと。しかし、たとえ相手が保安局の局長であろうと、それが破戒者であるならば赴くのが神問官の仕事である。

「おっさん、ピッキー、歌音は頼んだぜ。」

「えっ!? 置いてきぼりですか? これでも猛是さんのアシスタントですよね? 」

 そんな歌音の肩をソフィアが掴んだ。

「あかん。今回は大人しゅうしとき。確かに歌音は猛是はんのアシスタントかもしれへんけど、“見張る者”に狙われとるっちゅう事を忘れたらあかん。」

 ソフィアも歌音がうつろに狙われているところに出くわしている。荒木場が誰と会うのかハッキリしていない以上、リスクは冒せない。歌音も猛是の足を引っ張りたくはない。今回は渋々諦める事にした。

「ちゃんと帰ってきてくださいね。」

「当たり前だ。」

「汝、偽るなかれ、ですよ。」

「あぁ。」

 そんな猛是と歌音のやり取りをピッキーは微笑ましそうに見ていた。

「そろそろ。」

 久来の声に頷くと猛是は階段を駆け降りていった。二人が辿り着いた場所は港の埠頭にある倉庫だった。

「おいおい、今時こんな昔の刑事ドラマみたいな場所で密会する奴なんて居るのか? 」

「逆に盲点と考えたのかもしれない。しっ! 」

 久来が口に指を当てると人影が現れた。

「やはり荒木場局長だ。」

 久来が顔を確認した。そして後から2つの人影がやってきた。1人は“見張る者”の中では亡きアズライールやシェミハザと肩を並べる大物、アザゼル。そして、もう1人。それは、そこに居る筈のない人物であった。

「何故… 何故、この場に… 」

 猛是の視線の先に居たのは枢機卿イグニスだった。

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