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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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真紅の天女

 窓から久来くくるがビルを出たのを確認して海美うみは、やっと胸を撫で下ろした。

「もう、何が何だか分かりゃしない。厄介事はゴメンよ? 」

「そんな事より“見張る者(エグリゴリ)”についてなんだが… 」

「ちょっと待ったぁっ! 」

 猛是もうぜが構わず話しを進めようとしたので海美が大声をあげた。

「なんだ、いきなり大声出して? 」

 さすがに猛是も話しを止めた。

「なんだじゃないの。厄介事はゴメンだって言ってるでしょ。どう考えても、このまま話し聞いちゃったら巻き込まれる流れでしょ? 帰るから続きは、それからにして。歌音かのんは話しが終わったら開店前に店にいらっしゃい。何か食べさせてあげる、猛是のツケで。じゃあね。」

 結局、海美は猛是からツケを取り立てる事なく帰っていった。

「ホッ。お陰で取り立てを免れたよ。それで、何故、“見張る者”に狙われているんだ? 」

 猛是に問われても歌音は激しく首を横に振った。

「わかりません。わからないんです。物心ついた時には、いつも追われていて… 逃げきれないと観念した両親は私を赤戸あかど村の長老に私を預けたんです。風の噂で、両親は“見張る者”の手に掛かったと聞きました。」

 そこまで聞いて猛是は首を捻った。

「何故、その村を出た? 」

「見つかったんです。今まで育ててくれた村に迷惑は掛けたくなかった。けど村を出るとなると、お金は必要だし。でもお仕事なんてしたこと無いし… 。」

 そこで歌音は俯いてしまった。

「それで、あんな話しに引っ掛かったのか。俺たち神問官インクイジターも破戒者である“見張る者”について存在を認識はしているが、なかなか尻尾を掴ませない。協力してもらえないか? 」

 もはや帰る所も行く所も無くなってしまったとはいえ、協力を請われても何をすればいいのか分からず戸惑っていた。すると、歌音のお腹がグゥと鳴った。

「ん~焦る事ぁない。先に飯にしょうか。」

 ここでも歌音は戸惑った。海美の店に行けば猛是のツケが増える。かといって持ち合わせもない。結局、申し訳なさそうに猛是について階段を降りていった。

「すいません、まだ開店前なんですけどぉ。」

 地下の龍宮の扉を開くと若い女の子が二人ほど駆け寄ってきた。

「なんだ、アシタバモメンか。海美は居るか? 」

 猛是にそう呼ばれて1人が口を尖らせた。

「前から、その2人まとめて反物妖怪みたいに呼ぶの、やめてくださいって言ってますよね? 」

 その剣幕に思わず歌音がたじろいだ。それに気づいたもう1人の女の子が頭を下げてきた。

「ごめんなさいね。歌音さんですよね? 私、ここでアルバイトしてるこうぞ木綿ゆう木綿もめんって書いてユウ。ほら、アスハ。歌音さんが、ビックリしてるでしょ! 」

 ユウに言われてアスハは頭を掻きながらペロリと舌を出した。

「あぁ、ゴメン、ゴメン。オレは明日葉あすは。大島明日葉。明日葉あしたばって書いてアスハだ。宜しくな。」

 どうやら、こちらが本来の口調なのだろう。一応、猛是は客扱いらしい。

「話し聞いてんなら早ぇや。何か喰わしてくれ。」

 するとアスハが手を出した。猛是が首を傾げるとアスハが溜め息を吐いた。

ちぃママから歌音が来たら飯、食わせてやってくれって言われてるけど猛是はツケ払ってからな。」

 どうやらツケを払いに来たなら客だが、払わないなら客ではないと云うことらしい。そんな様子に店の奥から女性の笑い声が聞こえてきた。

「あぁら。猛是ともあろう人が借金? 」

 艶やかな声。赤い髪。口唇には真っ赤なルージュ。深紅のドレス。猛是の服装が純白なら、彼女の出で立ちは真紅。歌音からすれば都会のセンスが今一つ分からない。だが、それ以上に驚いていたのはアスハとユウの2人だった。

「えっ!? 緋翔ひしょうさんの知り合い? 」

 すると今度は猛是が吹き出した。

「ぷっ。そう言や、彩華あやか。お前、世間から緋翔天女とか呼ばれてるんだっけな。」

 猛是に笑われて彩華は少し不服そうな顔をした。

「そんな笑わないでよ。芸名もキャッチコピーも事務所が勝手につけたんだから。」

 2人のやり取りに歌音はきょとんとしていた。

「このね、“見張る者”に目をつけられてるっては? 」

 そう言って彩華は歌音の顔を覗き込んだ。

「何処から聞いた? 」

 猛是としては歌音の存在が、思った以上に早く各所に漏れていることを不審に感じていた。

監察官インスペクターの久来さんから連絡があったわ。なんで自分で報告入れないのよ? あ、襟谷えりやさんだったわね。私の事は知ってると思うけど… 」

 彩華の言葉に歌音は激しく首を横に振った。その反応に一番、驚いたのはアスハだった。

「え゛ぇ~っ!? 緋翔彩華さんよ? 人気女優の? ウソでしょ??? 」

 アスハの驚き様に、すっかり萎縮している歌音を見て彩華が割って入った。

「大島さん、楮さん。申し訳ないけど少し外していただけるかしら? 」

「え? あ、ハイ! 」

 彩華に言われてアスハとユウは店の奥へと消えて行った。

「それじゃ、改めて自己紹介させてもらうわね。表向きは女優、緋翔彩華。本名はアヴェーノ・彩華・セイメル。本業は神問官インクイジター。猛是の同業者よ。」

 そう言って彩華は歌音に微笑み掛けた。

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