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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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教皇

「教皇、何故国際社会に伝えたのですか? このままでは倭国が… 」

 1人の枢機卿が教皇の判断に危惧を覚えていた。

「世界平和は教会の務めである。危機感の共有は当然ではないかね? 」

「しかし、各国は… 」

 続けようとした枢機卿を教皇は止めた。

「案ずるな。倭に、あの男が居る限り破戒者たちの思い通りになる事は無いっ! 」

 教皇の毅然とした態度に、この枢機卿も引き下がざるをえなかった。

「まったく… 世に安寧をもたらすのはバラバラの国際社会ではない。統一された組織、我ら教会なのだ。そして、あの少女が救いの箱の鍵であったならば、その箱を開けるのは今、教会の長である私なのだ。破滅の箱とて“見張る者(エグリゴリ)”たちだけを破滅させられるようになれば、それもまた世の救い。そうして宗教、国、思想、通貨、ありとあらゆる物が統一されれば争いは消える。我こそが救世主なのだよ。」

 部屋の外では、先程とは別の枢機卿が2人、対峙していた。

「… もしかして、今の聞いちゃった? 」

 赤い衣を纏った枢機卿が、緑の衣を纏った枢機卿に尋ねた。

「… さて、何の事かな? 」

 緑の衣を纏った枢機卿は顔色一つ変えずに答えた。

「さすが、ヴィエール卿。教皇は絶対だよな。」

「違いますね、イグニス卿。私の絶対は教会の教義です。そして教皇の行動が逸脱しない限り、枢機卿はそれを補佐するのが立場の筈ですよね。」

 それを聞いたイグニスは冷笑を浮かべた。

「もし教皇が教義から逸脱したら? 」

「ありえませんね。何故なら教義から逸脱した時点で、その者は教皇ではなく破戒者ですから。」

 イグニスは今度はつまらなそうに2、3度頷いて口笛を吹いた。

「ヒュ~ッ。さすがヴィエール卿、クールで優等生なお答えだぜ。まぁ、せいぜい互いの正義を貫くとしようや。」

 軽く右手を挙げてイグニスは、その場を去っていった。

「互いの正義… か。それが、ぶつかり合わんと良いのだがな。」

 そう言ってヴィエールも立ち去っていった。部屋の中では教皇が笑みを浮かべていた。

(外で私の声が聞こえるという事は、外の声も私に聞こえるという事なのだよ。)

 一方、倭では猛是の事務所を監察官インスペクター久来くくるが訪れていた。

「先に、妹の件ではお世話になりました。礼を申し上げます。」

 久来は猛是の事務所に居た守善に頭を下げた。

「そない、改まらんでもええって。わいはオデットに頼まれただけやさかい。」

 初対面だが、書類上は猛是たちより上級職の司祭という事になっている。もう少し堅苦しいものだと勝手に想像をしていたので久来は多少、面食らっていた。

「で、今日は何の用だ? まさか、錢瓶のおっさんに礼を言いに来ただけじゃないだろ? 」

「察しがいいですね。単刀直入に言えば唐京から襟谷さんの保護命令が出ました。」

 それを聞いて歌音は慌てて猛是の後ろに隠れた。

「なるほど… 念のため確認するけど確保じゃないんだよな? 」

 猛是の言葉に久来は大きく頷いた。

「もちろんです。保安局からは、かなり確保するべきとの圧力があったようですが唐京はあくまでも公安局の管轄ですから勝手な真似はさせませんので安心してください。」

 保安局と公安局の対立は猛是も猟魔から聞いていた。そして、保安局には“見張る者”との繋がりが疑われている事も。

「実際、大丈夫なんだろうな? “見張る者”とやりあってる間に後ろから襲われたら洒落んならないぜ? 」

 猛是が疑うのも無理はない。猟魔と久来を慶繁けいはんで襲ってきた犯人は口封じの為に始末されている。表向きは犯人個人が“見張る者”に傾倒して起こした事件であり保安局の関与は無かったとされていた。

「少なくとも、久来監察官についてだけは私が保証しよう。」

 そこには猟魔とピッキーが立っていた。

「先輩たち、速いて… 」

 猛是はピッキーとは初見だったが、階段を後から登って来たソフィアが先輩と呼んだ事で彼女が水の司祭ピックティンダル・スティングレーである事を察した。

「それでは失礼するよ。」

「えっ!? まだ来たばかりじゃないですか? 莉音さんほど上手じゃありませんが、お茶くらい… 」

 早々に立ち去ろうとする猟魔を歌音が呼び止めた。

「せっかくですが、またの機会にさせてもらいます。中々探偵業というのも忙しいものでね。」

 猟魔は足早に今来た階段を掛け降りて行った。

「相変わらず、忙しないなぁ。」

 その後ろ姿をソフィアが呆れたように見送っていた。

「ありゃ逃げたな。」

「そのようね。」

 守善が呟くとピッキーが相槌を打った。

「えっ!? 葵さん、逃げたんですか? 」

 歌音からすれば、猟魔は何事にも動じないタイプだと思っていた。

「多分ね。もちろん探偵業が忙しいのは嘘じゃない。一部、保安局から公安局の上層部に人事異動があったお陰で探偵として今回の件の調べものがやりにくくなったのは事実な筈。でも、それ以上に自分の作り上げた完璧な段取りと想定と推理で行動するタイプの彼にとっては予想外で想定外で気紛れで自分勝手なペースで行動する私やソフィアみたいなタイプはやり難いんだと思う。」

 ピッキーの言葉に歌音は思わずポカンとさせられていた。

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