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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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神の雷霆

「いつの間に… 」

 端から張ってあったのか、気づかぬうちに張られたのか。今はそんな事よりも、その上に居る事実の方がアズライールにとっては問題だった。迂闊に動けば糸の餌食だろう。普通のワイヤー程度なら千切って脱出も可能かもしれないが隕石の金属器具メテオ・メタル・マテリアルとなれば、そうもいかない。

「状況が理解いただけたなら、文字通りお縄についてもらえるますか? 」

 すると突然、アズライールは笑いだした。

「クックックッ… ハッハッハッ。笑わせる。言った筈だ、喪告と不死のどちらが二つ名に相応しいかハッキリさせると。行くぞっ! 」

 ライラにはアズライールの瞳に狂気が見えた。仕方なくライラは糸を引いた。それは、まるで網のようにアズライールを包みにゆく。アズライールも飛び上がるが、オデットの時と同様に羽が生えている訳ではないので降りなくてはならない。先にライラが網を閉じていれば別だが、開いて着地を待っていた。それに張り巡らされた糸は人間の跳躍力で飛び出せるような範囲ではない。着地する直前を狙って再び糸を引いた。着地前ならば生身の人間に自由に方向転換は出来ない。その姿はまるで蜘蛛の巣に囚われた虫のようだ。

「下手に暴れない方がいいですよ。貴方の衝撃系の古代の遺物(エンシェントレリック)では相性が悪かったようですね。」

 嫌な予感はアズライールにもあった。情報として持っているオデットの得物ならば、こんな事にはならなかった筈である。教会も攻めて来たのがアズライールと知ってライラを寄越したのかもしれない。

「ここで捕まる訳にも古代の遺物を渡す訳にはいかないんでね。まさか、こんな所で散る事になるとは思わなかったよ。」

 そう言った直後、アズライールは一瞬の躊躇いも無く自爆した。テロと呼ぶには、あまりにも小規模だったが、一切の痕跡も古代の遺物も跡形もなく消え去った。まるで存在そのものが無かったかのように。その爆煙の向こう側から1人の人影が近づいて来た。

「一歩、遅かったと言うか、はやまったと言うか。アズライールも気の短い。あと、ほんの少し待っていれば形勢は逆転したというのに。」

 ライラは無言で身構えた。直感的に危険を感じていたからだ。

「その見事な彫金の施された竪琴、不死調の竪琴ライラ殿とお見受けする。なるほど、アズライールの得物では相性が悪かった訳だ。我が選霊名は神の雷霆(ラミエル)。かつては幻視を司り黙示を伝える天使の名だ。この名を賜った事の意味、神問官インクイジターならば理解出来よう? 」

 ラミエルの問いの答えは単純だ。ラミエルの持つ古代の遺物が幻覚と電撃を放つという事だ。だが戦闘たたかいはそう単純ではない。通常の雷程度ならば、弦を避雷針にして接地アースすればよい。しかし相手は古代の遺物だ。そんな簡単にはいかないだろう。

「こちらも“契約の箱(アーク)”を獲りに来ているんだ。通してもらいますよ。」

 そう言うとラミエルは左の手首から霧のようなものが吹き出し、右の手首から電撃を放った。おそらくはリストバンドのような古代の遺物なのかもしれない。ライラも反射的に前に弦を張り巡らしたが、その網目の間を何かがすり抜けてきた。かろうじて躱す事が出来たが、油断は出来ない。

「初見でこれを躱すとは、さすが神問官ですね。」

 ラミエルの言う“これ”が幻覚なのか雷撃なのか、それとも別の何かなのか。ライラには計りかねていた。

「アズライールの仇討ちなどというつもりは、甚だありませんが、これで終わりにしましょう。」

 再びラミエルは霧を撒き散らすと二方向から何かが飛んできた。電撃もあるので弦を戻す訳にもいかず、この間合いで飛んでくる物が何なのか、実体なのか虚像なのか、それすらも分からなかった。拙いと思ったライラだったが、それがライラに届く事はなかった。

「何故だ… 何故、貴様が此処に居る!? 」

 顔を顰めたラミエルの視線の先、ライラとの間には銀髪に銀縁のミラーサングラスを掛け、純白の服装の青年が二本の白銀の直刀を携えて立っていた。

「“見張る者”から狙われているって分かってんのに、何の防御機能も無いオンボロビルで大人しく待ってるとでも思ったのか? 歌音かのん、ライラを連れて教会へ行けっ! 」

「はいっ! 」

 猛是もうぜに言われて元気よく返事をした歌音だったが、実際には逆だ。猛是の目配せにライラも小さく頷くと二人は教会へと退いていった。

「さて、かみなり様のお相手をするとしようかね。」

 一瞬、身構えようとしてラミエルは、それを辞めた。

「神鳴り… どうやら、我が古代の遺物の仕掛けに気づいたようですね。」

 ラミエルの言うとおりならば、猛是は霧の中から網の目をすり抜けてライラを襲った何かの正体に気づいたのだろう。

「今日のところは引き揚げるとします。もし、あの娘が、こちらの“契約の箱”の鍵ならば、開けておいてくれると手間が省けるんですけどね。」

 教会には積極的に“契約の箱”を開ける気がないのはラミエルも承知している。何故ならば今回の一件まで教会側が鍵とクリスタル・スカルを積極的に捜索していた形跡が無いからだ。ラミエルは霧を撒き散らし、その中へ消えていった。

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