表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10階の猛是  作者: 凪沙一人
21/42

二つの箱と鍵

「1つは太古に殺戮と破壊を行った滅びの箱。いま1つは使徒を助け勝利をもたらした救いの箱。しかし、これは教会側の視点から表されている。我々“見張る者(エグリゴリ)”にとっては滅びの箱こそが救いをもたらすのだ。アズライールは再びユーロピアへと渡り、シェミハザと交代かわれ。失せ物を探すにはシェミハザの方がよかろう。もう1つの“契約の箱(アーク)”を探させる。アザゼルは、もう1つの鍵を探せ。そして、救いの箱の鍵を始末せよ。」

 あの方と呼ばれる者は簡単に言うが、事はそう簡単ではない。アズライールは神問官インクイジターの本拠地に乗り込む事になる。シェミハザもアザゼルも手掛かりもなく2つ目の箱と鍵を探さねばならない。これは“見張る者”にとって計画の遅延はやむを得まい。箱の場所は後の人類が移動させているかもしれないし、鍵に至っては現代の誰かなどダイヤモンド・スカルの記録に頼るだけ無駄である。ダイヤモンド・スカルを手に入れて一歩前進、箱と鍵がもう一組在る事が分かって半歩後退といったところか。だが簡単ではないとしても反論などあろう筈もない。こうなればアズライールも聖遺物に関わると、ろくな事にならないなどと言ってもいられず、シェミハザと交代かわるべくユーロピアへと旅立った。アザゼルはアテなど無いので、ともかく探すしかない。歌音かのんの時は最初から判っていたが、あの方と呼ばれる者もダイヤモンド・スカルを解析するまで知らなかったとなるとゼロからのスタートである。それから数日後、ユーロピアからシェミハザがやって来た。

「意外に遅かったな? 」

 アザゼルにしてみればユーロピアと倭国の間には直行便が飛んでいるので、もっと早く来るものと思っていた。

「ちょっと寄り道をね。」

「寄り道? 」

 倭にシェミハザが寄るような場所が思い当たらなかったアザゼルは首を傾げた。

「うん。荒木場アラキバ殿の所に御挨拶と情報収集に。」

「荒木場に? 」

 荒木場といえば以前、アザゼルの元を訪ねた事もある倭の保安局長だ。“見張る者”の指導者の1人ではあるがシェミハザがわざわざ挨拶に行くほどの者ではない。となれば目的は挨拶などではなく情報収集の方だろう。

「それで、何か情報は得られたのか? 」

 問われてシェミハザは少し考えた。

「うぅん、そうだね。多分、間違いないとは思うんだけど。」

「歯切れの悪い返事だな? 」

 奥歯に何か挟まったような感じだ。普段はハッキリと物を言うタイプのシェミハザにしては珍しかった。

「うん。まだ確証が得られてないからね。一応、言っておくと、もう1つの“契約の箱”の在処ありかに見当がついたんだ。鍵の方は知らないけどね。そっちはそっちで見当つけてるんだろ? まさか世界中を駆け回って探そうって訳じゃあるまい? 」

 シェミハザに他意の無い事は分かっているのだが、アザゼルの現状からすれば嫌味に聞こえてしまう。もう1つの鍵については何の手掛かりもない。あてもなく世界を駆け回ったとしても見つかるようなものではない。歌音と同様に相手は人間だと思われる。だが、それすら確証は無いのだ。

「世界中を駆け回るつもりは無いが、手掛かりの欠片も無いんでね。」

 自分だけ手掛かりを掴んできたシェミハザに対してアザゼルは自嘲気味に言った。

「手掛かりが無ければ推論を起てるしかないね。第一の鍵が人間だから第二の鍵も人間だとして、我々が第一の鍵を赤子の頃から追っていた事を考えれば鍵となる要因は先天性である可能性が高い。だとすれば、第一の鍵の縁者かもしれない。無作為に探すよりは可能性を潰していった方がマシだろ? 」

 確かに他にアテもない状況ではアザゼルもシェミハザの言うとおりだと思えた。

「そうだな。取り敢えず、歌音あれが唐京に来るまで居た村から探ってみるか。」

 こうしてアザゼルは宝泰峰ほうたいほうの赤戸村へと向かった。

「まさか、本当にノープランだったのか!? まぁいいや。僕は僕で粛々と自分の任務をこなすだけだからね。」

 シェミハザからすれば、厄介払いでもしたようだった。“見張る者”の指導者たちは裏切る事のないよう互いに誓いを立てていた。禁忌と言ってもよい。裏切るつもりなど毛頭無いが、誓いについては抵触しかねない事もする。故に同じ指導者であるアザゼルが居ると都合が悪かった。

「さてと。僕も“契約の箱”の在処を確定しないとね。」

 誰に言うでもなく、シェミハザは呟いて出掛けた。そのシェミハザと入れ替わりにユーロピアにやって来たアズライールは少々、梃子摺っていた。それもそのはず、相手は教会の本拠地である。一筋縄にはいかなかった。

「ずいぶんと早いお帰りのようですね? 」

 教会本部に向かおうとするアズライールの目の前に現れたのはオデットだった。

「おや、待っててくれたのかい? 」

 軽口を叩かれてもオデットは顔色一つ変える事はなかった。

「そんな筈が無いのは承知しているでしょう? 今度こそは、貴方を捕らえて見せましょう。」

 アズライールも不敵な笑みを浮かべる。

「捕らえる? 汝、殺めるなかれってか? 悪いが、こっちには、そんな戒律は無いんだ。あっても破戒するだけだけどな。正当防衛、カルネアデスの板って奴だ。生き残るのは、どちらか1人、命懸けで来なっ! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ