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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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“古代の遺物”と“隕石の金属器具”

「一応聞くけど、わいの事を宝瓶って呼ぶって事は“見張る者(エグリゴリ)”って事で間違いないなぁ? 」

 そう言って守善しゅぜんが前に出ると同時にりん麻耶まやを連れて下がった。

「我はアザゼル様が配下、うつろ。我が選霊名を賜る為には神問官インクイジターの首級の一つも挙げねばならぬらしくてな。銀狼の時は邪魔が入るし、白鳥の時はアズライール様に不意を突かれた。だが、こうして機会に恵まれるとは捨てたものでもないらしい。」

 虚は手にしたステッキを抜き放った。仕込み杖のようなものだろう。ただ、出てきたのは剣というより針のようだ。斬る為のものではなく、突き刺す為の武器だ。

「凛、フライトの時間に間に合わんといけねぇ。麻耶ちゃん連れて先に行け。わいが間に合わんかったら猛是もうぜんとこに行け。あいつが一番、居る可能性が高い。」

 確かに女優、探偵、ミュージシャンと比べれば、事務所に居る確立は高そうだ。

「了解ッス。行こう、麻耶ちゃんっ! 」

 凛は麻耶の手を引いて空港に向かった。幸いにも虚は神問官の首にしか興味は無いようだ。

「あんさん、余計な事せんとアザゼルんとこに帰りゃいいものを。」

 守善は懐に手を入れるとヨーヨーを取り出した。

「そんな物で何が出来る? 」

「やってみな、わからんよ。」

 守善は虚の挑発に乗る事なくヨーヨーを放った。虚は呆れたようにステッキでヨーヨーの糸を払った… つもりだった。ヨーヨーは虚のステッキを一周して守善の手に戻った。地面には切断された虚のステッキが落ちていた。

「やはり、ただの玩具おもちゃの訳はないか。」

 虚は切り落とされたステッキを拾い上げると仕込み杖の中に入れ柄を戻した。

「わいら神問官を相手にするなら“見張る者”の指導者クラスを連れてくるんだな。」

 神問官と“見張る者”。因縁浅からぬ間柄故に互いの組織体系は知れている。教会の調べでは“見張る者”には20名ほどの指導者と呼ばれる階級がある筈だ。そしてシェミハザやアザゼル、アズライールなどは指導者に含まれる。とはいっても直接、“見張る者”に確認した訳ではないので、どこまで合っているのかは定かではない。

「舐められたものです。この虚が神問官に劣るとでも? 」

 守善は呆れたように首を横に振った。

「さっきから虚、虚と言うが、指導者アザゼルの配下なら“名もなき者”の1人だろ? わいらの武器は指導者の古代の遺物(エンシェントレリック)と戦えるように造られたもんだ。戦う前に勝負は見えている。」

「その辺にしておけっ! 」

 気配が近づいて来る様子は無かった。虚が猛是の前から姿を消した時も気配までは消せなかった。理由や方法はともかく、その者は突然現れた。

「貴様、白鳥狩りを邪魔した奴だな? 面は見てないが間違いない。」

 守善は目の前に現れたのがアズライールである事を確信した。何を根拠に間違いないと言ったのかは分からないが、実際に間違ってはいない。

「本当に指導者のお出ましとは畏れ入る。」

「悪いが、こっちもダイヤモンド・スカルを届けないといけないんでね。お前も借り物なんだから、とっとと帰れ。俺の所に来て生き延びた悪運だけは認めてやる。アザゼルにも、ちゃんと白鳥の足止めをしたって言っといてやるよ。」

 どう考えても、こんな事では選霊名など賜る事は出来まい。だが、アズライールが現れたとあっては虚も大人しく従うしかなかった。

「アズライールはん。て事はダイヤモンド・スカルを持ってると? 」

 守善の問い掛けにアズライールは大笑いをした。

「ダイヤモンド・スカルなら、ここに… なんてな。んな訳、ないだろ。お前のヨーヨーも… なんだ… あれだ、隕石の金属器具メテオ・メタル・マテリアルって奴だろ? まさか、隕石あれを教会に先に押さえられるとは思わなかったよ。」

 確かに“見張る者”から隕石を落としたという犯行声明は出ているが、これはアズライールが落としたという事なのか。それとも“見張る者”より先に教会が押さえた事を指しているのか。

「なら、ダイヤモンド・スカルが何処に在るのか、吐いて貰わないとな。」

 守善の言葉にアズライールは薄笑いを浮かべた。と次の瞬間、地震のように地面が揺れ、不意を突かれた守善も足を取られた。揺れが収まった時にはアズライールも虚も姿を消していた。おそらくは氷河を動かしたのも、この能力ちからだったのだろう。“見張る者”指導者の持つ古代の遺物が、どんな能力を持つ物なのかまでは噂の域を出ていなかった。

「逃げられたか… って、こっちも急がんとフライトに間に合わんやんか!? 」

 慌てて守善も空港に向かった。チェックインも手荷物検査もフリーパスだ。これもまた神問官特権のひとつである。

「良かったぁ。店長、ここッス。」

 搭乗してきた守善に向かって凛が大きく手を振った。実のところチャーター機なので、他に客が居る訳ではないので、そんな事をしなくても直ぐに分かるのだが、凛からすれば守善抜きで麻耶を連れて猛是を訪ねるというのは些か不安を抱えていた。

「お前なぁ。少しは麻耶ちゃんを見習って静かに… ? 」

 急な出来事に緊張していたのだろう。よく見ると麻耶は静かなのではなく眠っていた。

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