表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10階の猛是  作者: 凪沙一人
18/42

久来の妹

「それでは神殿に? 」

 オデットの質問に守善しゅぜんは首を横に振った。

「いやぁ、この吹雪ですしね。それにオデットさんが今頃、此方に居るって事は無いんでしょ? 」

 既に神殿にダイヤモンド・スカルは無い。これにはオデットも少し忌々しそうに頷くしかなかった。

「そんじゃ帰りやしょうか。乗ってきます? 」

 だが、守善の指差した先にあるスノーバイクはスノーモービルほど大きくはない。どう見ても1人乗りだ。

「せっかくですが遠慮させていただきます。」

 オデットは何処にしまってあったのかスノーボードを展開すると一礼して滑り降りて行った。

「さすが、ウィンタースポーツの女王だ。」

 オデットは神問官インクイジターになるまでフィギュアスケートの選手だった。そこで“見張る者(エグリゴリ)”では氷原の白鳥と呼ぶようになったのだが、大会に出ながら神問官の職をこなすには難しいものがあった。フィギュアスケートはアマチュアを引退してプロになる選手が居る他のスポーツとは逆とも思える競技だ。オデットはプロスケーター転向と同時にスキーダンスやスノーボード、大回転、モーグルなどを身につけた。運動神経がいいが天才肌で、やってみたら出来てしまったという。各競技団体は惜しんだがオデットにはメダルよりも破戒を止める方が大切な事に思えた。そんなオデットを追って守善もスノーバイクで下りて行った。

「遅いッスよ、店長ぉ~っ! 」

 守善を待っていたのはアシスタントであり閻輝堂えんきどうの店員でもある鈴鹿すずかりんだった。どうやらオデットはとっくに着いていたようだ。

「一応、報告は私の方で済ませておきました。」

 そう言ったオデットの脇に2人の少女が居た。1人はオデットのアシスタントのようだが、もう1人。教会と言っても神問官の居るような場所に一般人が来るとも思えなかった。

「どちらさん? 」

「私はレディアント・オデットのアシスタント兼マネージャーの白鳥レダ。教会から錢瓶ぜにがめさんは、この後は倭国に戻られると伺って、こちらのお嬢さんを一緒に同行させていただきたく、お連れしました。」

 レダに紹介された少女が申し訳なさそうに頭を下げた。

「初めまして。久来くくる麻耶まやと言います。」

「久来? どっかで聞いたような名だな? …あぁ、監察官インスペクターの? 」

 守善も倭国の神問官。監察官の名前くらい知っていても不思議はない。麻耶も頷いた。

「兄が御世話になってます。」

 すると、守善は否定するように手を振った。

「いやいや。唐京の奴等と違って接点は無いんだ。優秀な監察官だとは聞いているよ。」

「あぁ、仕事人間だから監察官としては優秀に見えるかもしれないですけどね。」

 家族が仕事人間と呼ぶ場合、家族を振り返らない事がある。麻耶の口振りからすると久来も、この類いのようだ。おそらく本人は世の為、家族の為に一生懸命に働いているので罪は無いのだが。

「事情は分かった。久来監察官の妹って事は“見張る者”に狙われるかもしれないって事か。」

「話が早くて助かります。お願い出来ますか? 」

 あらためてレダは守善にお願いした。何故か凛も横で手を合わせている。

「あぁ。色々と情報は貰ってるから国に頼むより神問官に頼むってのも理解できるしな。任せな。で… 仕方ないな。凛も連れてってやるよ。」

 単純に凛は唐京に行ってみたかったのを守善に見透かされて頭を掻いた。倭に居る時は店番をさせられる事が多く、店が休みでも神問官のアシスタントをしていると唐京などに行っている暇は無かった。ともするとブラック企業のようだが、神問官とは職業というより家族の一員。つまり父や母、兄でも姉でもいいのだが、そのポジションに休みが無いように人類という家族を守る者だと教わっているので凛も納得はしているので無理矢理に休みを欲しがる事は無い。だからこそ、こんな機会は逃してはなるまいと思った。物欲ではないし、欲するなかれというよりは求めよ、さらば与えられんのつもりだ。

「お手数をお掛けします。ユーロピア(こちら)でのショーが無ければ私が行っても良かったのですが。」

「コホンッ。」

 オデットの言葉にレダが咳払いをした。マネージャーとしてはショーに穴を空けさせる訳にはいかない。

「まぁ、狙ってくるとしたらアザゼル派って事だとは思うが、その後のアズライールの動きは監視しといてくれ。」

 過去に於いてはシェミハザ派やアザゼル派が共闘した記録は無い。だが、“見張る者”という1つの組織に与している以上、今後も共闘しないという保証は無い。

「その点はこちらで強化するように教会にもお願いしてあります。」

 おそらくは現状、これ以上の事は出来そうにない。そう踏んだ守善は、オデットたちに別れの挨拶をしてから、凛と麻耶を引き連れて出発した。そんな三人を空港の手前で待ち構えているシルクハット姿の者が居た。

「まったく、予定外にして予想外。やはりアズライール様の元ではろくなことにならない。氷原の白鳥を討ち損ねたのですが、いにしえの宝瓶ならば不足は無いでしょう。」

 三人の前に現れたのは間違いなく氷河に飲まれた筈の虚だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ