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10階の猛是  作者: 凪沙一人
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ソフィア

 とりあえず、今回のミヌエットの迷子事件は解決したと考えていいだろう。

「でも、良かったです。本当は仔猫ちゃんが迷子じゃなくて。」

 歌音かのんの言葉に猛是もうぜ彩華あやかは顔を見合わせた。

「また、あたし何か変なこと言いました? 」

 2人の様子に歌音は動揺していた。

「なんや、“見張る者(エグリゴリ)”に狙われてるっていうさかい、どないなかと思うたら、えぇやないか。」

 今度はソフィアの言葉にきょとんとした。歌音も決して三人が自分を馬鹿にしている訳ではないのは理解出来るのだが、会話についていけない。

猟魔りょうまには私の方から報告しておいてあげるから。ソフィアもお目当ては歌音なんでしょ? 」

 彩華は悟られないように猛是に合図した。

「そんじゃ、そっちは彩華に任せるわ。歌音、帰るぞ。」

「ハイっ! 」

 猛是は歌音とソフィアを連れて駅へと足を向けた。さすがに城東から二人を連れて深熟しんじゅくまで歩くとは言えない。彩華は1人、猟魔の事務所へと向かった。

「なるほど、助かったよ。」

 ことの顛末を聞いて猟魔は紅茶をすすった。この助かったは、いくつもの意味が含まれている。

「猟魔はソフィア、苦手だものね。」

 彩華は悪戯っぽそうに笑った。ソフィアを猟魔の事務所に連れて来なかったことも、その1つだ。

「まぁね。変に慶繁けいはんに染まっている感じがどうにもね。それより、そのうつろと名乗った男は頭蓋変形をしていて、アザゼルの配下と言ったんだね? 」

 少し困惑したように彩華は二、三度小さく頷いた。

「そう。シェミハザの動きが別件なのか、アザゼルと同調してるのか判らないけど、これで歌音が“見張る者”から狙われているのは確定ね。」

 すると猟魔はスケジュール帳を取り出して何やら確認していた。

莉音りおん、明日からまた出かけるから留守を頼む。」

「はいっ! 」

 声を掛けられた莉音は、そそくさと支度を始めた。すっかり登山準備だ。

「さすが莉音君ね。何も言わなくても貴方が宝泰峰ほうたいほうに登るってわかってる。うちの茜も、このくらい気が利けばねぇ。」

 彩華は莉音の段取りの良さに感心していた。だが羨むなかれ、である。茜は、まだ付き人。比べてはいけない。一方、彩華と分かれた猛是たちも猛是の事務所に着いていた。

「ふぅ。相変わらずエレベーターが直ってへんなぁ。」

 ソフィアも何度か猛是の事務所に訪れた事はあったが、ここでエレベーターに乗った記憶が無い。

「ソフィアの言葉遣いも相変わらず直らねぇな。」

 猛是は、別に猟魔のように苦手にしている訳ではない。多少、気になる程度である。

「しゃあないやないか。研修ん時に、これで覚えてもうたさかい。」

「ソフィアさん、やまとで研修されたんですか? 」

 珈琲を差し出しながら歌音が意外そうに尋ねた。

「そや。うちは倭で研修しとるし猟魔はんはユーロピアで研修しとる。彩華はネオアーバンやったかな。」

 これも1つの多様性とでもいうのだろうか。1つの地域だけで生活をしていると思想が偏る事もありえる。故に他の地域で研修を積み見識を広げよ、という事らしい。中に居ては見えない事に気づくかもしれない。

「猛是さんは何処で研修したんですか? 」

 歌音の質問は話の流れからすれば、もっともなのだが、猛是は苦笑した。

「あぁ、猛是は例外中の例外。研修受けとらへん。まぁ、タイミングっちゅうか状況っちゅうか… いきなり実戦投入されたんや。」

 猛是が答える前にソフィアが答えてしまった。

「優秀だったんですね。」

 優秀だったから研修が免除されたと歌音は思ったようだが、そうではなかった。

「まぁ確かに優秀な科目もあったけどなぁ。そうやない。歌音は深熟の一帯がスラム化した理由って知っとる? 」

 歌音は首を横に振った。そもそも神示区しんじくと深熟区の区別もつかず、半年前に解体された劇場を訪ねて来るくらいだ。スラム化の原因など知る由もない。

「昔、深熟に二度、隕石が墜ちてな。街は火の海どころか一瞬で灰になった。一度目の後は復興を目指したんだが、10年後に二度目の隕石が墜ちて、この街は見捨てられた。」

 猛是がゆっくりと語り始めた。

「また復興を目指さなかったんですか? 」

 普通に考えれば歌音の疑問はもっともである。だが、唐京のど真ん中で復興を放棄するには、それなりの理由があった。

「一度目の隕石落下後に“見張る者”から犯行声明があった。隕石を落としたのは自分たちだと。そして10年後に二発目を落とすと。その時点では意図的に隕石を狙って落とすなど、出来るわけがないと政府は相手にしなかった。危機感を抱いた教皇は今の神問官の原型となる騎士団を編成した。だが10年後、二発目の隕石は落下した。そして、また犯行声明があり三発目を落とすと予告してきた。復興しても、また隕石を落とされては無駄になる。こうして深熟は棄てられた。」

「なんで深熟だったんでしょう? 」

 歌音も思った疑問をストレートに猛是にぶつけてきた。

「当時は深熟は唐京の中心地だったからな。二発目のお陰で各国は騎士団に特別な権限を与えて“見張る者”の対応を任せる事にした。それが今の神問官だ。隕石落下直後で人手不足もあって俺は研修抜きで対応に当てられた。」

 そんな大掛かりなテロリストのような“見張る者”が何故、自分を狙うのか。歌音の疑問は深まっていった。

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