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10階の猛是  作者: 凪沙一人
12/42

公安局と保安局

「いつから気づいていた? 」

 あきらかに猟魔りょうま久来くくるが見ていると端から分かっていた。

「もちろん、最初からです。唐京とうきょうを出る時に同行すると言い出すんじゃないかと心配しましたよ。」

 これは半分本音だ。尾行も同行も一緒に行動しているのだから似たようなものかもしれないが、尾行ならば気がついていないフリをしていれば余計な気遣いをしないで済む。

「まぁ、こちらも上からの命令通り動いただけだ。1人ぐらい逃がして泳がせるかと思ったよ。」

 実際、久来はそんな事は思っていないだろう。猟魔の事だ、何か手を打っている筈… だが、莉音りおんのように素直に聞こうとはしない。

「トカゲの尻尾は切り落とされると何も出来ませんからね。でも胴体は頭と繋がっている筈です。」

 やはり久来に負けず劣らず回りくどい。つまり、雑魚は切り捨てられて本命には辿り着けないので、もっと上を泳がせている、という事だ。

「監察官は彼等を所轄の警察官に引き渡さねばならないのでしょ? 私はお先に失礼します。」

 猟魔は実行犯と久来を残して立ち去っていった。久来は一見、平然と見送っているようだったが内心ではしまったと思っていた。これ程、堂々と尾行を撒かれた事は無かった。

「さてと、厄介ですね。」

 猟魔は唐京行きの最終列車の中で考えていた。久来は撒いた… 筈だった。これが最終なので始発まで慶繁けいはんに足留め出来ると思っていた。しかし、発車寸前に車輌に飛び込む姿が見えてしまった。だが、そんな事よりも問題なのは公安が神問官である猟魔を直接、狙ってきた事実だ。厳密に言えば唐京の公安と、それ以外の公安は括りが異なる。唐京は公安局だが、それ以外は保安局。警視庁と警察庁のようなものだ。細かい事を言えば似た所も、まるで違うところもあるのだが今は割愛する。要は今回の問題は公安局ではなく保安局にありそうだという事だ。そもそも歌音かのんが出てきた観輪かんりん省は保安局の管轄だ。おそらく歌音の捜索願いも保安局からの横連携で唐京については公安局が受け持ったのだろう。以前に久来が内部機密と言っていたのも、その辺の事情もあるのかもしれない。唐京に拠点を置く猟魔としては探りが入れ難いのも事実だった。そうこうしていると貫通扉(連結間の扉)が開いて久来が入ってきた。

「残念な事になった。」

 久来の口調に若干の悔しさが滲んでいる。

「口封じされたか? 」

「何故それを!? まだ公表されていない筈だぞ。」

 そう言いながら久来は猟魔の隣の席に座り込んだ。隣に他人に座られたくなくて1人であるにもかかわらず並びで指定席を抑えていた猟魔からすると不本意なのだが事情が事情と諦めた。

「もともとネットニュースなどは見ないから公表非公表は関係ない。このタイミングで久来監察官が此処に居るという事は犯人という上層部への手掛かりを失ったからに違いない。それが脱走であれば久来監察官のことだ、所轄と連携して犯人を追跡するだろ? それをしないと云う事は始末されたと考えてよさそうだと思っただけさ。」

 こうも当然のように説明されると、それはそれで腹立たしい。

慶繁こっちの神問官は大丈夫なのか? 」

 久来に問われて猟魔はクスリと笑った。

「何が可笑しい? 」

「いや、失礼。神問官が危ないのならば特務も危ない事になりませんか? 彼等とて、そこまで愚かではないでしょう。私を狙ったのは公安局特務の依頼を受けた探偵だからでしょうし、一颯いぶきの腕も茨木さんの頭脳も信用していますから。」

 少々甘く見ている気がしないでもない。だが“見張る者(エグリゴリ)”については神問官の方が詳しいし、猟魔は久来の目の前で複数人の保安局公安を取り押さえて見せた。その猟魔が信用すると言うのだから一颯の腕も相当なものなのだろうと推測された。

「それで唐京に戻るのか? 」

 久来は質問を変えた。

「えぇ。一旦事務所に戻って調査資料を纏めてから公安局に伺います。その時は証人として立ち会って頂けると助かります。」

 既に逮捕事実は伝わっていると思われるが、久来が電車に乗ったタイミングから推測してろくに調書は作成されていないだろう。ならば、現場に居た監察官の証言は重要証拠だ。久来としても断る理由はない。そもそも久来が所属する特務が猟魔に依頼した案件である。

「それは構わないが、日時の連絡はどうする? メールや電話連絡という訳にはいかないのだろ? 」

 さすがに依頼書を持っていった時のように、いちいち猟魔の探偵事務所に出向いてもいられない。

「それは莉音りおんから電話させますよ。」

「そうか、電… 電話!? 」

 思わず立ち上がってしまった久来は他の客の視線を浴びて、ばつが悪そうに再び席に着いた。

「何も驚く事はないでしょう。仮にも探偵事務所ですよ、電話くらいはあります。もちろん盗聴対策はしてあります。有り体に言えば、私個人には直接の連絡方法が無いだけで事務所には連絡がつく筈ですよ。まぁ、余計な機能の付いた通信機でなければ… ね。」

 暗に公安局側から連絡がつかないのは余計な機能が付いていると言っている。それでも、緊急事態に備えて数は少ないが公衆電話も存在はしている。猟魔側からの電話連絡は可能なのだ。

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