パープリン大将と、僕。 弟子にしてください。
僕は大将と三吉のやり取りを固唾を飲んで見ていた。大将が何時もの素振りで競馬新聞を覗き込んだ姿を見て
僕の体は反応して、二人の前に回り込んで、土下座していた。
「私を子分、弟子にしてください」気づいた時には、コンクリートに頭を擦り付けて、「大将に感動しました、大きい心に、感動しましたどうぞ私に勉強させてください」三吉は、唖然として、しばらく見て、僕の頭を上げさせました。その上げた僕の顔を見て「パープリン」と一言言われました。
驚いたことに、大将も三吉も僕の名前も素性も何も訊きません、「おめえは、僕でいいか、俺のことは、三吉兄さんと呼びな」三吉が言った。ただそれだけで、たぶん弟子になってしまった。
驚いたことに、大将は気合が入ったのか、11レース、最終12レースと3連単を的中させて、この日300万のプラスにしてしまった。隣で見ていても開いた口がふさがらない状態で、呆れるばかりだった。
もっと驚いたのは、大将と三吉兄いが、競馬場の警備事務所に、飲んでとんずらした男の件で、事情を説明に行った事だ。そんなことは、気にしない心の大きな大将だと思ったのだが、どうやら金持ちに共通する、大らかな心には、細かいとか、ケチだとかが同居しているらしい。三吉兄いの運転する黒塗りのロールスロイスで大将は帰っていった。一区切りついて忘れ物のように、「明日ここで、な僕。」三吉兄いが言った。
次の日競馬場の開門と同時に、スタンドの最前列で大将と三吉兄いを待っていた。二人は大柄な男を伴って現れた。おはようございますと、通り一辺の挨拶をすると。「こちらは中国から御越しになった、今週、来週の、週さんだ、失礼の無いように」と三吉兄いが、言った。「きょうは、たのしむあるね、よろしくおねがいあるね」ハイテンションで週さんが言った。大将が「ところで、週さんは神様を信じますか」いつになく真剣に聞こえた。「ハハハ、わたし、信じるあるよ。これね」週さんは、アタッシュケースをおもむろに、開けた。中にはびっしりと隙間なく帯封をした福沢諭吉が、入っていた。大将は作り笑いをうかべ、うなずき笑って見せた。三吉兄いだけが、笑いもなく険しい表情を隠さなかった。僕には大将のことばが引っ掛かった。
第一レースの馬たちが、返し馬を始めだした。